第19話
健一から託されたダイヤモンドを剣に変えた慎司。
その剣は、普通のどの剣よりも魔力にあふれていた。
「そんな短期間で強くなれるはずがない!くらえ!落鉄岩らくてつがん!」
黒金の、岩のような攻撃。立ち会ったばかりで、まだふらふらな慎司。
それでも慎司が作った剣は、圧倒的な硬度でその技を防いでいた。
「潰れろ!」
黒金の勢いは増すばかり。とうとう、剣が弾かれてしまい、絶体絶命だった。
その時だった。
ダッダッダッダッダッダッ
突如、舞い上がる者が見えた。有紫亜だった。
火花が散った。後少し遅れていたら、今頃慎司は生きていなかっだろう。
「鳳城有紫亜か?貴様は…」
「やっ、どうやら、ギリギリだったようだね…」
黒金の言葉を無視し、状況を把握した有紫亜。
「だから言ったでしょ!光士郎!」
有紫亜がそう言うと、静かに闇から壺内が出てきた。
「そうですね…」
壺内はヘトヘトそうだった。
「鳳城有紫亜!貴様、一体どうやってここに来た!」
黒金が怒声にも近い大きな声でそう言った。
「…悪いけど、重傷の人もいるから、なるべく早く決着をつけさせたい」
そういうと、さっきまで持っていた物とは違うものを取り出した。
剣だ。真っ黄色な剣。
「これは光流剣。光ってのは、一秒で地球を七周半できることができる、この世界で一番速い物。それを、圧縮したのがこの剣。触れた瞬間に、焼けるような痛みが襲いかかるだろうね」
そう言うと、有紫亜はその剣を振り下ろした。
「面白い!そんな物で切れるものなら切ってみろ!」
黒金は笑いながらそう言った。完全無防備な状態。今なら本当に切れそうなぐらいだ。有紫亜は一歩一歩黒金へと足を運んだ。
次の瞬間、黒金の胸には血が大量に流れていた。
「なっ」
木室も、慎司も、壺内も、黒金も、全員が驚いた。
(今、何が起きた…)
壺内光士郎は、鳳城騎士団で、能力を含めたら一番剣術が強い。有紫亜に剣を教えたのも、壺内だった。
そんな壺内が、見えなかったほどの速い斬撃、それを黒金にくらわせた。
「なっ、ぐっ…」
ジュウウウゥゥゥゥ…
黒金の斬られた後は、段々と焼けているような音をしていた。
「なっ、これは…」
「言ったでしょ、私の持っている剣は、焼けるって」
「馬鹿な!まさかほんとうに…」
有紫亜は鋭い視線で、黒金を凝視し続けた。
「くっ、どうやら、能力を使わないといけなくなったらしいな…」
そういうと、黒金は頭の鎧を取り、破壊した。
黒金は、黒髪をして、四十代近くの見た目をしていた。
「俺の能力、"先を読む目は、ありとあらゆるものの流れを読むことができる。お前のふった剣、立ち位置、これから予測される動きを、俺の目は俺の脳に直接伝える。だから、俺は直感でお前の技すらもをかわすことができる」
「だから何?それが私の負ける理由になるとでも?」
「あぁなるさ。数分後、涙を流しながら必死に命を懇願するお前が見えるさ…」
黒金は目に笑いを浮かべた。
「意味ないから…そういうの!」
有紫亜は剣を構えた。
「ふふっ、来い!」
一進一退の攻防、それが相応しい言葉だった。二人の武器は止まることを知らず、ただただ打ち付け合っていた。火花が散り合っている。
「今の状態なら、有紫亜さんのほうが有利ですよね…傷も無いですし…」
慎司はボロボロになりながらも、価値を確信していた。
しかし、
「いや、それはどうかな」
壺内が不穏な言葉を発した。
「さっきの黒金の、先を読む目。あれはハッタリにしては、動きが格段に良くなっていやがる。恐らく本当にそういう目を持っているんだろう。あのままじゃ、有紫亜が先に疲れちまう」
壺内は淡々とそう言った。
「じゃあ、壺内さんが加勢を!」
「いや、それもダメだな」
またもや壺内は不穏なことを言った。
「あの速さじゃ、俺の弱点を見つける能力も使えない。あと二十年ぐらい若ければ、余裕で見れたと思うけどな…もう最近は歳だ。今まで持っていた情熱も無くなっちまった。俺にとっては、強いやつの方に従い続けるまでさ」
そういって、ポケットに手を突っ込み、タバコを取り出した。
「フゥー。それに、最初『一人で戦い』っていったのは有紫亜だぜ?有紫亜は、人との約束無下にするような奴じゃないはずだ。そう思うなら、お前も黙って見てろ。あれぐらいの奴にも負けるようじゃ、次の団長になれねぇぞ?」
そう言って、有紫亜が戦う姿をただ見ていた。
(くっ、速い!一歩一歩が間違えれば命取り!なんとか間一髪で避けられてるけど、あいつに全く攻撃が通らない!それに対して、私はボロボロ。言ったいどうしたら!)
有紫亜は焦っていた。もし負けてしまったら、と考えていた。最初に一人で戦うと言ったのは自分だし、その言葉を訂正するようなことはさせたくない。
「いい加減しぶといな。有紫亜」
黒金は突如として動きを止めた。
そして、前にいるのは助走がついて止まれない有紫亜。
「しまっ!」
ドゴーン
有紫亜は斧の攻撃をモロに食らってしまった。腹部に傷が入ってしまった。最悪、骨や臓器が壊れていそうなぐらい痛い。
「グハッ…」
有紫亜は吐血している。
「鳳城騎士団総隊長もこれぐらいの実力か…これじゃ、殲滅し終えるのも時間の問題だな」
黒金が余裕そうにそう言った。
「有紫亜、お前にさっきされた攻撃、あれは死ぬほど痛かった。でもよぉ、その攻撃も、何発も何発も当たれば強いかもな。当たればだけどな」
黒金は笑みを浮かべた。
「お前じゃその剣を使いこなすことは難しいなぁ…有紫亜」
「わかっている…ずっと、私が弱いって。わかっている」
「ん?」
「だから、少しでも強くなれるようにって、頑張って来た。でも、上には上がいるんだよな…私がどれだけ頑張った所で、結局は気合の持ちようだ。私にはそれが無かった…」
有紫亜はため息を吐いた。
「今までは、だけど…」
「んっ」
「今は、守るべき者と、助けるべき仲間がいる!そのおかげで、私は気合が、入っている!こんな所であんたに負けちゃいかない!」
有紫亜は、フラフラな体を"気合"で持ちこたえた。
「貴様…死ぬぞ」
「覚悟の上だ。これで私が死んでも、誰かが私の意思を継いでいってくれればいい」
「ガッハッハッハッハッハッハッハ!貴様、まだそんな綺麗事を!」
「綺麗事じゃないよ」
「んっ」
有紫亜は続けていった。
「これは本当さ。死んでも勝つ!それが私の出した答え…あんたにはない答えさ!」
黒金はムカついた。
「お前にあって俺にないだと…!?貴様、ふざけるのも大概にしろよ…俺は全てにとってお前の上なんだ!お前に負ける要素など、ない!」
黒金は思いっきり足に力を入れ、有紫亜の間合いを詰めた。
「死ね!有紫亜!」
黒金は有紫亜を真っ二つにする勢いで斧を振った。
しかし、黒金の斧はすぐにかわされた。
「えっ?」
そして、有紫亜は、黒金を思いっきり切った。
ザグッ
「ガバッ!」
黒金は大量出血をして、倒れた。
余りにも一瞬で終わった。
周りは全員、目を丸くしていた。
「さぁ、まだまだ敵はいる。ここで立ち止まってないで、さっさと行くぞ!」
「はっ、はい!」
有紫亜以外の人間が下へ下へと走り出していた。しかし、何かを言い残すように有紫亜はただそこに立っていた。
「な、何故俺の斧が、かわされ、た…」
「最後のあんたは、気合があった。しかし、気合しか入ってなかった。あんたの体には、私を殺すという殺気と、私の言葉に対しての怒りしか無かった。それが、私に負けた敗因。そのせいで、あんたの目も使えなかったしね…」
「くっ…そ…が…」
黒金は意識を失った。
有紫亜は生きているかどうかを確認してから、歩いて下に向かうのだった。




