表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔人諸島〜魔物になった者の生き方〜  作者: 飛鳥川碧希
第1章 魔物と人間編
18/19

第18話 いつも助けてくれる

「慎司!」


 木室は剣と、浮いた小石を瞬間移動させた。

 木室から受け取った剣は、鉄製の剣。


「サンキュー毅!」

「そんな剣で俺に勝てるとでも思っているのか!」


 黒金の全力の技を、慎司はただただ耐えることしかできなかった。


「くっ!押し返される!」





 気づいた時には慎司は壁に叩きつけられていた。

 頭からは出血していて、二つの剣は、折れてしまっている。体は動かない。


「詰み、か…」


 黒金が少しづつ迫って来ている。それでも慎司は動けない。体が、言う事を聞いてくれない。

 必死に横を見ると、驚いた顔をしている木室や班の人達がこっちを見ている。


(すまねぇ…先いってるわ…)


 段々と視界がぼやけ始めていた。


(幻覚まで見えてきやがった…)


 慎司の目の前には、木室でも黒金でも無く、算健一が立っていた。周りは白に埋め尽くされて、慎司と健一しかいない世界が広がっていた。


「ごめんな…健一。約束果たせなかったわ…」


 それでも無言で健一は立っていた。健一はただ慎司に笑顔を向けていた。


「そう言えば、あの後、だんだん悪化していったんだっけ。今はどうなっんてんのかな…お前…」


 慎司は悲しくそう言った。





 あれは、慎司が個別練習になる少し前の時。

 その日は、いつも通り水道場で慎司と健一が話していた。


「でさでさ…」

「ゲホッゲホッ…ガハッ…」


 健一は、急に咳をし始めた。吐血を出していた。咳は止むことなく、ずっと血を吐き続けていた。


「大丈夫か!?おい、健一!!」


 健一は、慎司の心配の言葉が聞こえないかのように、ずっと咳をしていた。

 涙を流しながら。

 健一は、やっと咳が治まった。


「ごめん。僕、呪われているらしくて…」

「えっ?呪い?」

「うん…僕、誰かから呪いを受けたらしいんだ」


 健一は悲しそうに言った。今にも涙を流しそうな顔で話を続けた。


「この呪いを受けた人は、二十五歳までに死ぬらしくて…僕、結構呪いの進行が早くって。もしかしたら、今年か来年で死ぬかもって、お医者さんが言ってたんだ…」

「そんな…健一!」


 慎司は、励ますように健一の手をそっと握った。


「呪いとか病気とかは、気合いだ!気合で何とかなる!だから頑張れ!死ぬな!健一!お前がいないと、お前がいないと…寂しいんだ!今まで、健一と話してきて、楽しいとか、嬉しいとか がわかったんだ!だっ、だから…」


 慎司は段々と涙が浮かんできた。

 何度拭っても拭っても、涙が出続けている。


「なんだよこれ…」


 慎司は必死に目をこすった。やっと涙が止まり始めた。

 そんな慎司を見て、健一はそっと静かに手を握った。


「じゃあ約束!僕は二十五歳まで絶対生きる!だから、その時は慎司も、喜んでくれる?」

「うっ、うん!」


 またもや溢れてきそうな涙を、頑張って止めながら返事をした。


「絶対!約束!」


 慎司と健一は、その場でゆびきりげんまんをした。


「約束!」





「ごめんな…健一。あと一ヶ月後には二十五歳になるって言うのに…」


 慎司は謝った。

 健一は、一本一歩、慎司の方へと歩いって行った。

 健一は、慎司の手をそっと握った。まるで太陽のように笑った健一。

 次にまばたきをすると、そこにはさっきの光景が広がっていた。

 黒金がすぐ近くまで近づいてきていた。


「最期に、言い残すことは?」


黒金は終始余裕そうな表情をしていた。さっきと同じ光景。このままじゃ、慎司は死んでしまう。


「んっ、なんだ、これは…」


 慎司はふと手に何かが入っているのがわかった。恐る恐る手を開くと、そこには小粒のダイヤモンドを持っていた。


「えっ、これは…健一の…」





 慎司の誕生日の日。


「はいっ!これ、プレゼント!」


 健一から貰ったのは、小さな小さなダイヤモンドの欠片だった。


「こ、これは…?」

「ダイヤモンド!前にお父さんの知り合いが取ったんだって!」

「で、でも、そんな貴重な物、俺が貰えないよ…」


 そんな事を言うと、無言で健一は慎司の手を取った。そして、手にその小さなダイヤモンドを置いた。

 慎司はハッとした。


「これは、今から慎司の物だ!な?これで良いだろ?」


 慎司は、ただ頷くことしかできなかった。健一の"渡したい"と言う気持ちが伝わってきたからだ。





「ほんっと、どこまでもお前に助けられてばかりだな!俺は!」


 健一から託されたダイヤモンドを剣に変えた慎司。

 その剣は、普通のどの剣よりも魔力にあふれていた。


「そんな短期間で強くなれるはずがない!くらえ!落鉄岩(らくてつがん)!」


 黒金の、岩のような攻撃。立ち会ったばかりで、まだふらふらな慎司。

 それでも慎司が作った剣は、圧倒的な硬度でその技を防いでいた。


「潰れろ!」


 黒金の勢いは増すばかり。とうとう、剣が弾かれてしまい、絶体絶命だった。

 その時だった。


ダッダッダッダッダッダッ


突如、舞い上がる者が見えた。有紫亜だった。

 火花が散った。後少し遅れていたら、今頃慎司は生きていなかっだろう。


「鳳城有紫亜か?貴様は…」

「やっ、どうやら、ギリギリだったようだね…」


 黒金の言葉を無視し、状況を把握した有紫亜。


「だから言ったでしょ!光士郎!」


 有紫亜がそう言うと、静かに闇から壺内が出てきた。


「そうですね…」


 壺内はヘトヘトそうだった。


「鳳城有紫亜!貴様、一体どうやってここに来た!」


 黒金が怒声にも近い大きな声でそう言った。


「…悪いけど、重傷の人もいるから、なるべく早く決着をつけさせたい」


 そういうと、さっきまで持っていた物とは違うものを取り出した。

 剣だ。真っ黄色な剣。


「これは光流剣。光ってのは、一秒で地球を七周半できることができる、この世界で一番速い物。それを、圧縮したのがこの剣。触れた瞬間に、焼けるような痛みが襲いかかるだろうね」


 そう言うと、有紫亜はその剣を振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ