第18話 いつも助けてくれる
「慎司!」
木室は剣と、浮いた小石を瞬間移動させた。
木室から受け取った剣は、鉄製の剣。
「サンキュー毅!」
「そんな剣で俺に勝てるとでも思っているのか!」
黒金の全力の技を、慎司はただただ耐えることしかできなかった。
「くっ!押し返される!」
気づいた時には慎司は壁に叩きつけられていた。
頭からは出血していて、二つの剣は、折れてしまっている。体は動かない。
「詰み、か…」
黒金が少しづつ迫って来ている。それでも慎司は動けない。体が、言う事を聞いてくれない。
必死に横を見ると、驚いた顔をしている木室や班の人達がこっちを見ている。
(すまねぇ…先いってるわ…)
段々と視界がぼやけ始めていた。
(幻覚まで見えてきやがった…)
慎司の目の前には、木室でも黒金でも無く、算健一が立っていた。周りは白に埋め尽くされて、慎司と健一しかいない世界が広がっていた。
「ごめんな…健一。約束果たせなかったわ…」
それでも無言で健一は立っていた。健一はただ慎司に笑顔を向けていた。
「そう言えば、あの後、だんだん悪化していったんだっけ。今はどうなっんてんのかな…お前…」
慎司は悲しくそう言った。
あれは、慎司が個別練習になる少し前の時。
その日は、いつも通り水道場で慎司と健一が話していた。
「でさでさ…」
「ゲホッゲホッ…ガハッ…」
健一は、急に咳をし始めた。吐血を出していた。咳は止むことなく、ずっと血を吐き続けていた。
「大丈夫か!?おい、健一!!」
健一は、慎司の心配の言葉が聞こえないかのように、ずっと咳をしていた。
涙を流しながら。
健一は、やっと咳が治まった。
「ごめん。僕、呪われているらしくて…」
「えっ?呪い?」
「うん…僕、誰かから呪いを受けたらしいんだ」
健一は悲しそうに言った。今にも涙を流しそうな顔で話を続けた。
「この呪いを受けた人は、二十五歳までに死ぬらしくて…僕、結構呪いの進行が早くって。もしかしたら、今年か来年で死ぬかもって、お医者さんが言ってたんだ…」
「そんな…健一!」
慎司は、励ますように健一の手をそっと握った。
「呪いとか病気とかは、気合いだ!気合で何とかなる!だから頑張れ!死ぬな!健一!お前がいないと、お前がいないと…寂しいんだ!今まで、健一と話してきて、楽しいとか、嬉しいとか がわかったんだ!だっ、だから…」
慎司は段々と涙が浮かんできた。
何度拭っても拭っても、涙が出続けている。
「なんだよこれ…」
慎司は必死に目をこすった。やっと涙が止まり始めた。
そんな慎司を見て、健一はそっと静かに手を握った。
「じゃあ約束!僕は二十五歳まで絶対生きる!だから、その時は慎司も、喜んでくれる?」
「うっ、うん!」
またもや溢れてきそうな涙を、頑張って止めながら返事をした。
「絶対!約束!」
慎司と健一は、その場でゆびきりげんまんをした。
「約束!」
「ごめんな…健一。あと一ヶ月後には二十五歳になるって言うのに…」
慎司は謝った。
健一は、一本一歩、慎司の方へと歩いって行った。
健一は、慎司の手をそっと握った。まるで太陽のように笑った健一。
次にまばたきをすると、そこにはさっきの光景が広がっていた。
黒金がすぐ近くまで近づいてきていた。
「最期に、言い残すことは?」
黒金は終始余裕そうな表情をしていた。さっきと同じ光景。このままじゃ、慎司は死んでしまう。
「んっ、なんだ、これは…」
慎司はふと手に何かが入っているのがわかった。恐る恐る手を開くと、そこには小粒のダイヤモンドを持っていた。
「えっ、これは…健一の…」
慎司の誕生日の日。
「はいっ!これ、プレゼント!」
健一から貰ったのは、小さな小さなダイヤモンドの欠片だった。
「こ、これは…?」
「ダイヤモンド!前にお父さんの知り合いが取ったんだって!」
「で、でも、そんな貴重な物、俺が貰えないよ…」
そんな事を言うと、無言で健一は慎司の手を取った。そして、手にその小さなダイヤモンドを置いた。
慎司はハッとした。
「これは、今から慎司の物だ!な?これで良いだろ?」
慎司は、ただ頷くことしかできなかった。健一の"渡したい"と言う気持ちが伝わってきたからだ。
「ほんっと、どこまでもお前に助けられてばかりだな!俺は!」
健一から託されたダイヤモンドを剣に変えた慎司。
その剣は、普通のどの剣よりも魔力にあふれていた。
「そんな短期間で強くなれるはずがない!くらえ!落鉄岩!」
黒金の、岩のような攻撃。立ち会ったばかりで、まだふらふらな慎司。
それでも慎司が作った剣は、圧倒的な硬度でその技を防いでいた。
「潰れろ!」
黒金の勢いは増すばかり。とうとう、剣が弾かれてしまい、絶体絶命だった。
その時だった。
ダッダッダッダッダッダッ
突如、舞い上がる者が見えた。有紫亜だった。
火花が散った。後少し遅れていたら、今頃慎司は生きていなかっだろう。
「鳳城有紫亜か?貴様は…」
「やっ、どうやら、ギリギリだったようだね…」
黒金の言葉を無視し、状況を把握した有紫亜。
「だから言ったでしょ!光士郎!」
有紫亜がそう言うと、静かに闇から壺内が出てきた。
「そうですね…」
壺内はヘトヘトそうだった。
「鳳城有紫亜!貴様、一体どうやってここに来た!」
黒金が怒声にも近い大きな声でそう言った。
「…悪いけど、重傷の人もいるから、なるべく早く決着をつけさせたい」
そういうと、さっきまで持っていた物とは違うものを取り出した。
剣だ。真っ黄色な剣。
「これは光流剣。光ってのは、一秒で地球を七周半できることができる、この世界で一番速い物。それを、圧縮したのがこの剣。触れた瞬間に、焼けるような痛みが襲いかかるだろうね」
そう言うと、有紫亜はその剣を振り下ろした。




