第16話 新世界
「私は、世界を変えるために魔神とある契約した」
「魔神…?」
魔神。今、六車は魔神と言った。
一体どういうことなのだろうか。
「あぁ。私の寿命を半分やるかわりに、人間より高位な存在にさせてくれ、と。そう願った」
「だから私は今、人間よりも強い。この戦いは初めから決着は決まっていた!そういうことだ!」
六車は、突如四方八方の暗黒を思いっきり叩いた。
バゴーン
ガダガダガダ
砂埃が天井から降ってくる。少し地面も揺れている。
(ただの暗黒じゃないのか?)
暉は今起きていることに戸惑いを隠せなかった。
「なぁ、暉。だからこそ、私達、『人間よりも高位な存在』同志、世界を変えないか?」
(何言ってんだこいつ!?世界を変える?俺たちだけで?何を、一体…)
暉は六車を心の奥底で少し罵った。
しかし、六車はまた暉の方を見て言った。
「無駄だ。私はありとあらゆる生き物の思考が覗ける。今だってそうだ。お前の心の中を見た。どうやら、『何を言っているのかがわからない』と思っているんだな?」
六車の言っていることは的中していた。
「じゃあ、もっと細く説明をしてやる。ついてこい」
六車はさらに足早で、暗黒空間を歩き出した。
暉は、恐怖でただ後ろをついていくことしか、できなかった。
足音が、この暗黒空間で聞こえた。六車の足音、暉の足音。とにかく無のなかで、聞こえたのはそれだけだった。
一体どうなっているのか。六車が作った空間なのか。それはわからなかった。
「暉」
六車は突如、暉に問いかけた。
「私は、最初から戦うことを望んでいた訳ではない。ただ、お前という魔物と混在する生き物と合って、"新世界"を作ろうと思っているんだ」
「新世界…?」
六車は、少し沈黙した。
六車は突如、歩くのをやめた。
「そう。新世界とは、人間のいない、自由な世界。そして、私たちのような"元人間"が、世界の覇者となる。それが私の理想だ。同じ元人間同士、何を言っているのかはわかるだろう?」
六車の言葉は、さっきより重みを帯びていた。断ったらどうなるのか、何度もガクガクする体を必死に叩き起こして、暉は言った。
「ていうことは、貴方はただ、世界で一番に立ちたいっていう願望を叶えたいだけだろ?所詮、そんな理想を抱く貴方は、心が人間のままだってことだよ!?」
「き、貴様…!!!」
六車は唇を噛み締め、拳を握りしめ、今にも爆発しそうな怒りを暉にぶつけた。
「貴様、貴様、貴様!!貴様には俺の言いたいことがわかると思っていたのに、思っていたのに…」
六車は感情が爆発していた。
段々、声は禍々しくなっていった。暉はこの声を、魔人諸島で戦った魔神に近い声に聞こえた。
(どうやら、魔物にどんどん支配されちまっているようだな)
六車は、急に黙った。そして急に、口を開いた。
「なら、殺すしかないな」
突如、四方八方が真っ暗だったのが、変わり、神殿のような場所になった。
「こ、ここは!?」
暉は戸惑った。
それはそうだ。急に場所が変わったのだ。何が起こったのかは急には理解できなかった。
「なぁ、暉…このまま殺されて、私に支配されるか、仲間となって、共に新世界を作るか、選べ」
六車の拳には、これほどまでにない魔力がためられていた。一発でも食らったら死ぬレベルだろう。
暉は魔眼で見てそう思った。
暉のやることはただ一つ、
(みんなを待つことだ…!!)
二人はしばし睨み合った。
その頃、赤羽根班は…
赤羽根が率いる赤羽根班は、どの班よりも人数が多い。
赤羽根は、下っ端である人間や、今まで倒してきた相手、それらが一気に鳳城騎士団に入ったことで、赤羽根班が一番人数が多くなったのだ。
全員で協力しながら、本部施設内にいる人間どもを殺さない程度で倒してきた。
あまりにも早い戦い。
まだ突入してから三分しか経っていないのに、もう二階まで攻略してしまった。
「こんなもんかよ魔物討伐隊!!」
弱いと思いながらも全員を斬りつけていった。
しかし、その時だった。
「貴様が、赤羽根佑真だな?」
突如、前の暗闇から声がした。
コツコツという靴の音。
「…誰?」
「俺の名前は阿座上照。最強の男だ」
暗闇から姿を現したのは、白髪にロング。まるで吸血鬼を彷彿とさせる姿をした男だった。
外の天候も相まって、登場も完璧だった。
「ってか、なんで俺の名前わかんの?」
「鳳城騎士団の主要人物は全て記憶している。赤羽根佑真率いる、赤羽根班。壺内光士郎率いる、壺内班。宮久保直沙率いる、宮久保班。半井一誠率いる、半井班。本居篤己率いる本居班。そして…今まさに謹慎中の来栖洋仁率いる、来栖班…といったところかな」
赤羽根は、その言葉に目を見開いた。
「なぜ…洋仁を知っている…?」
「ははっ、どうやら機密情報だったか?来栖洋仁は、今から一ヶ月前に事件を起こしているな?」
「くっ…どうやら、そこまでバレていたとはな。少し見直したよ」
赤羽根は、阿座上を褒めた。どうしてそこまで情報を知っているのか、赤羽根は一瞬にして理解した。
【鳳城騎士団内に、内通者がいる】
と。
何故、来栖洋仁の事件について知っているのか。その情報は、機密情報レベルで、知っている人も限りなく少ない。そう考えると、最近団長を引退したばかりの鳳城剣也や、鳳城有紫亜とかの可能性がある。
しかし、今は戦いの最中だ。そこまで考える必要はないと、一次的にその思考を停止させた。
「お前、骨のありそうなやつだからな。最初から全力でかかってこいよ」
赤羽根は武器を取り出した。双剣。両方とも赤い刃である。
阿座上はそれを見てワクワクした。
「楽しませろよ?赤羽根」
一方その頃、半井一誠の班は、有紫亜の言ったとおりに、本部施設内へ潜入し、できるだけ敵の数を減らしていっていた。
そして、その先頭を走る男、金髪と黒髪の混合した男こそが半井一誠。
順調に敵を倒しながら進んでいた。しかしその時だった。
突然、目の前に刃物が壁に突き刺さった。
間一髪で避けた半井。
「あれ?そのまま進まないんだ…」
暗い雰囲気に合ったような声が左の通路から聞こえてきた。
「やぁ。僕の名前は鶴木章斗。君、強そうなオーラを纏ってるね」
「…」
半井は、依然として無言を貫いていた。
「まさか怖気づいた?大丈夫。すぐ殺してさっと終わるから」
「…」
そこまで言っても半井はまだ無言を貫いていた。
その、どこまでも真顔を崩さない半井に、章斗は内心怒りがあった。
「面白くないなぁ。君、死にそうになっても悲鳴一つあげなそう。でもさ…」
そう言うと、半井の後ろにいた班の人間たちに視線を向けた。
そして章斗は悪意のある笑いをした。
「君たちはどういう悲鳴を聞かせてくれるかなぁ?」
その顔に、全員が怖気ついていた。
しかし、その時だった。
「いい加減にしろよ」
「ん?」
口を開いたのは、半井だった。
半井は、普段は「無」に徹しているが、仲間の話になると別、例えどんな事があったとしても、必ず助ける。
半井は、周りから信頼と尊敬をされていた。
「お前が俺の仲間に手を出すってんなら、俺も出してやる」
そう言って、仲間は構えの体勢をした。
それを見た章斗は、笑いから真顔へと変わった。しかし、さっきよりも暗く、邪悪なオーラが溢れ出ている。
「後悔するなよ…」
章斗は、どこからとも無く刃物を一本、二本…と、合計四本の刃物を出した。
とてつもない魔力だった。半井は、魔眼を持っていないため、いまいち魔力の量が分からなかったが、本能が「ヤバい」と伝えていた…
「来い!!」
半井はそう言った。
その場には、しばらく凍てつくような空気があった…




