第15話 それでも自分は
一正は宮久保から距離を取った。
「やはり、貴様は強い。それは認めてやろう」
宮久保はその言葉に特に興味を持たなかった。
「だが、俺はお前の一歩、いや二歩先を行く!」
そう言うと一正は大剣に魔力をこめた。
(来る…!!)
宮久保は何となく一正が大剣に魔力をためていることが分かった。
それを分かったと同時に宮久保は構えた。
「受け止めてみろ!宮久保直沙!」
「こい!」
一正は今までの何倍もの速さで宮久保に対して突進をした。
大剣と斧運がぶつかりあう。
火花が散り合い、凄まじい力の押し合いへと変わった。
いつまでもこの押し合いが続くと思っていた。
「喰らえ、魔物共!!」
突如、一正が叫んだのと同時にドタドタという凄まじい音が練習場内に鳴り響いた。
「グウオオオオオオ!!!」
突如、壁を突き破り様々な魔物が出てきた。どの魔物も最高クラスの強さを持っていそうだ。
虎や象、烏やキメラなどの魔物。
「邪魔だ!」
しかしそれを軽々と一撃で倒し切った。
真っ二つになったのだ。
しかし、一正はその"一瞬"の隙を見逃さなかった。
一正は宮久保の背後に回り、大剣を構えた。
(勝った!お前はこれで死ぬ!)
一正が完全に勝ちを確信した時だった。
「くらえ宮久保!回避不可の斬撃!」
回避不可の斬撃をくらわせたと思った時だった。
斬ったのは、空だった。
そこに宮久保の姿は無く、すでに残像だけの状態だった。
「まさか見越して…!!!」
「その通り」
一正は視線をそらさずとも、すぐに宮久保が後ろにいるとわかった。
首周りに斧の感触がする。
少しでも動いたら首をかっ切られそうだ。
「言ったはずだろ。油断はするなと」
「くっ…」
一正は完全に負けた。前に宮久保が行っていた、「油断」を魔物たちに気を取られていた宮久保に対してしまっていた。
いつもだ。いつも、油断をしてしまう。勝ったと勝手に決めつけてしまう。
(こんなんだから、昔、お前に負けたのかもな)
そう思いながらも、一正はハッとした。
(そうだ。今、首近くに斧がある。これは、自分が勝ったと『油断』をしているのだ)
残念だったな。と、一正は心の中で笑った。
「消えろ、宮久保!!」
そう言って、一正は後ろを振り向かずとも大剣を後ろに回した。
「あんなに口酸っぱく言ってたことを、私が忘れるわけがないだろ」
一正は、次の瞬間、突如視界が暗くなった。
「う、うぅ…」
「ふぅ、腹一個、背中一個の大傷なのに、そこまで激しい運動をするからだ」
宮久保は、一正が最後の反撃をすることを見越して宮久保は大剣を飛び越えていた。
「はぁ…疲れた」
宮久保も頭から流血していて、所々に切り傷がついている。服もボロボロだ。
「早く…毅たちの元へ行かな…きゃ…」
宮久保は倒れた。
まるで眠るかのように、疲れが一気に溢れ出てきたかのように。
(ごめ、ん…みん、な…)
プツンと意識が途切れた。
その時有紫亜は、周囲をよく確認し敵が隠れてないかを確認した。
「よし、そろそろ本部施設内へ入るぞ」
有紫亜は指揮をとった。
「ええぇ…まさか潜入するんですか?もう赤羽根も宮久保も、ほとんどの班が潜入したからいいんじゃないですか?」
壺内はダルそうに言った。
「…駄目だ。みんなが頑張っているのに、私だけここで待っているのは、私が許せない。さぁいくぞ!光士郎!」
「はいはいはいはいはい…わかりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば。はぁーあ…」
壺内はため息交じりに本部施設へと潜入していった。
一方その頃、暉と六車は…
灯り一つ無い、ただ無音な暗黒世界へと歩いていた。
聞こえるのは、ドンドンという、六車の重苦しい音だけだった。そこにはその音が広がり続けていた。
(一体、なにが起こるってんだよ…)
暉は心配になりながらも、必死に六車の後ろをついて行っていた。もし、そこで立ち止まったり、逃げるなどの行動をした場合、自分にどんな災厄が振りかかるか知ったもんじゃないからだ。少しでも安全に帰るためには、こうするしかなかったのだ。
しばらく歩き続けると、突如、六車が話しだした。
「暉。貴様は"人間"をどう思っている?」
そこには、六車の重苦しい重圧のある声が響き渡った。
暉にとって、やはりこの声はダメだった。身体が震えている。凍ったように固まる口を、必死に溶かすようにした。
「に、人間…人間ですか?えー…えーっと、まぁ、生き物のなかでは上位に入るぐらいは、強いんじゃないんですか?」
暉はそう答えた。重苦しい暗黒の世界の中で、なんとか暉は耐えた続け、喋ることが出来た。
しかし、その回答をすると、急に笑い声が響いた。
「ガッハッハッハッハッハッハッハ!!」
そう。六車の笑い声だ。一体何がおかしかったのか、それは暉にもわからなかった。
だが、勇気を出して聞いてみた。
「じゃあ、貴方は"人間"をどう思っているのですか?」
「人間?人間は愚かな生物だ。多種多様な生物を、今まで絶滅させてきた。人間は、生物にとって害でしか無い!でも、人間がいないと、動物達がいまの生物をすることはできなくなることもわかっている。いかにデメリットなしに人間を滅ぼすことができるか、それが私の答えだ」
(何言ってんだこいつ!お前も人間だろ!)
暉は心のなかで、六車の言葉を冷静に突っ込んだ。
しかしだった。
「ほう。私も人間だと言うか」
暉はその言葉を聞いた瞬間、目をかっと見開いた。
「えっ…まさか、聞こえ」
「あぁ。はっきり聞こえた。『私も人間』だと!!」
六車の様子が変だ。
「私は、世界を変えるために魔神とある契約した」
「魔神…?」
魔神。今、六車は魔神と言った。
一体どういうことなのだろうか。
「あぁ。私の寿命を半分やるかわりに、人間より高位な存在にさせてくれ、と。そう願った」
「だから私は今、人間よりも強い。この戦いは初めから決着は決まっていた!そういうことだ!」
六車は、突如四方八方の暗黒を思いっきり叩いた。
バゴーン
ガダガダガダ
砂埃が天井から降ってくる。少し地面も揺れている。
(ただの暗黒じゃないのか?)
暉は今起きていることに戸惑いを隠せなかった。
「なぁ、暉。だからこそ、私達、『人間よりも高位な存在』同志、世界を変えないか?」
(何言ってんだこいつ!?世界を変える?俺たちだけで?何を、一体…)
暉は六車を心の奥底で少し罵った。
しかし、六車はまた暉の方を見て言った。
「無駄だ。私はありとあらゆる生き物の思考が覗ける。今だってそうだ。お前の心の中を見た。どうやら、『何を言っているのかがわからない』と思っているんだな?」
六車の言っていることは的中していた。
「じゃあ、もっと細く説明をしてやる。ついてこい」
六車はさらに足早で、暗黒空間を歩き出した。
暉は、恐怖でただ後ろをついていくことしか、できなかった。




