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魔人諸島〜魔物になった者の生き方〜  作者: 飛鳥川碧希
第1章 魔物と人間編
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第12話 侵入

 外はポツリポツリと雨が降っている。

 それでもある団体は歩きを止めなかった。そう。鳳城騎士団だ。

 欧介の「鳳城騎士団の人は必ず助ける」と言う言葉を実現させるために、魔物討伐隊本部施設へと歩みを進めていた。


「いつになったらつくんすか…?これ」


 一人の団員がついに言った。


「…そろそろだよ」


 有紫亜はそう言った。

 雨にうたれないように全員がフードをしている。金属音にも似た音が周囲を響かせる。


「ついについた」


 有紫亜がそう言うと、照らすかのように雷が降った。


「さぁ、これからは戦いだよ」


 有紫亜のその一言で全員が武器を持ち上げた。





 その時、欧介は数人の仲間と共に鳳城騎士団本部施設にのこっていた。


「行かなくてよかったんですか?」


 一人の団員がそういう。

 それを聞くと欧介は笑って言った。


「有紫亜が頑張るっていうんだから、いいんだ。

それに体術面は俺より有紫亜の方が何倍も強い」


 そう言うと、欧介は急に咳をしだした。ただの咳じゃない。血を出している。手で必死に抑えながら咳をおさえようとしている。


「大丈夫ですか!」


 慌てて駆け寄る団員だったが、それをもう片方の手で制止させた。


「…大丈夫だ。ただ、ただ咳が出ただけだ」


 そういう欧介は目に光がともってない。

 焦る団員。その眼差しは変わらなかった。

 痺れを切らしたかのように欧介は言った。


「じつは俺、呪われているんだ」

「え?」


 急な発言だった。


「どっかの誰かが俺の父親に嫉妬して呪いをまいたらしい。この呪いを受けたら最後、二十五歳で死ぬらしい。俺、あと一年経たずで死ぬんだって。最初はアホらしいと思った。でも激しい運動をすると必ずこうなっちまう。それは年齢と共に、比例するかのように段々と激しくなっていった。俺の夢"鳳城騎士団を束ねる団長になりたい"を実現させてくれたんだ。父上は」


 そう言う欧介を、団員はただ必死に涙を堪えて聞いていた。


 彼の名前は毛塚宏明(けづかひろあき)。五十三歳。欧介が生まれたときからずっとずっと側にいた男。

 元々は魔物討伐隊に入っていたのだが、自分と同時に入隊した親友が死んでしまい、何もかもを諦めていた時、剣也が声をかけたのだ。

 そこから宏明は、欧介に剣術を教えたり、技のかわし方、知識などを全て教えた。結果「第二の最強」とまで言われたのだが、もうその姿は影すらない。


「なんで、今まで黙っていたんですか?」


 宏明は問いかける。


「…決まってるだろ。心配かけたくないからだ。変にそうやって気を使われても俺が嫌なだけだ。だから今までずっと黙っていた。すまない」


 何度も口から出る血を拭くが、血は依然として出続けている。


「大丈夫だ!呪いなんか気合でぶっ潰せる!」


 そう言う欧介の顔は、いつもの太陽のような笑いがあった。

 それを見て宏明は安心できたわけではないが、少し落ち着くことができた。


「欧介様、少しでも長生きをして下さい…」


 それが欧介に対して宏明が言ったお願いだった。





 その時有紫亜一行は魔物討伐隊本部施設の一歩手前まで来ていた。

 いざ入ろうとした時だった。

 有紫亜の目の前を鎖鎌がとんでいった。

 鎖鎌がとんできた方向を見ると、そこにはある男性がいた。


「本当に強いんだね。有紫亜って。この本部施設には何人たりとも近づかせないよ。僕は門番だからね」


髪と目は漆黒で、目の下にはクマがある。声も弱々しい感じだ。


「あぁそう?でも門まで軽々と入ってこられたけど」


有紫亜が喧嘩口調に近い言葉を言うと、男性はハァ、とため息をついた。


「ここまでおびき寄せたのは君達を油断させるためさ。そんなのもわからないなんて、君、総隊長向いてないよ」


そういって有紫亜にむけて鎖鎌をのばした。


「僕の名前は草壁宗也(くさかべそうや)。その命頂戴するよ」

「やってみなよ。できるものなら!」


有紫亜は早口で伝えた。


「宮久保直沙班!貴方達には魔物討伐隊本部施設の地下施設を任せたい!何階あろうとも全てを鎮圧せよ!」

「はい!」


 そう大きな声で返事をすると、宮久保に続いて何人もが本部施設へと入っていった。


「行かせないよ」


そう言って草壁が鎖鎌をとばしたが、すんでのところで鎖鎌が止められた。そう、有紫亜だ。


「あんたの相手は私だよ!壺内光士郎(つぼうちこうしろう)班!貴方達は私の援護を頼む!」

「はい!」


 そう大きな声で返事をすると、何人もが有紫亜の周りを取り囲んだ。


「全く、雑に扱わないでくださいよぉ。有紫亜総隊長」


ダルそうに歩いてきたのは壺内光士郎。飴を舐めながら歩いてきた。


「すまんな。光士郎。だが今は緊急事態だ!よろしく頼む!」

「わかりましたよ。まぁ、本部施設に入るぐらいならこれの手伝いをしたほうが幾分かマシですしね」

「あれぇ?それ、ずるくない?僕は頑張って一人で戦っているって言うのにさ…不公平だ。許せない。許せないなぁ…!」


 そう言うと、草壁の持っている鎖鎌は少し大きくなっているのを感じた。


「やっぱりあの鎖鎌、特別製だったか」

「でしょうね。半井一誠(なからいいっせい)班!貴方達の班はなるべく全体の魔物討伐隊を倒してくれ!そして本居篤己(もとおりあつき)班!そっちは魔物討伐隊本部施設の周囲を捜索していただきたい!そして最後に赤羽根佑真(あかばねゆうま)は暉の救出!私もなるべく早く行くから!先に行っててくれ!」


 全部の隊が大きな声で返事をし、颯爽と任された仕事をこなしにいくなか、一人だけが有紫亜を呼び止めた。


「おいおい。この俺が子供の救出?ありえねぇな。この第一部隊の俺をそんな雑に扱いやがって。一体どういうつもりなんだ?有紫亜」


 そう。赤羽根佑真だ。赤羽根佑真。二十二歳。赤色の髪をしていて、先端は少し白っぽい独特な髪色をしているのが特徴。

 中学生の頃から喧嘩好き。売られた喧嘩は必ず何倍にもして返す。あまりの素行の悪さで慰謝料を払った時もあった。

 しかし高校一年生の春。案の定喧嘩ばっかりをしていた赤羽根を正したのは、当時高校三年生の鳳城欧介。当時の年齢は十七歳。

 急に食らった拳はただただ痛かった。

 始めて喧嘩で負けた赤羽根は、これから欧介についていくことに決めた。


「俺を動かすことができるのは欧介さんだけだ」


舌を出して挑発する赤羽根。


「…頼む!作戦に、協力、してくれ…!」


 急に投げつけられた鎖鎌を必死に止めながら協力を求める有紫亜。そな必死そうな顔を見て、赤羽根は笑った。


「ははは!いいねぇその顔!いいぜ。その絶望した顔を見れただけで俺は嬉しいからよぉ。ただこれは貸し一だ。後でこの借りは返してもらうからな。ほら行くぞ野郎ども!」

「おー!!」


 他の班より大きい声で返事をし、魔物討伐隊本部施設へと入っていった。

 有紫亜は深呼吸をし、鎖鎌を一気に投げつけた。


「いい加減、戻りなさい、よっ!」


 しかし草壁は軽々と大きくなった鎖鎌を持ち上げた。


「僕の鎖鎌、すごいでしょ。僕の怒りに反応して強くなるんだ。この鎌。頑張ってね」


そういって鎖鎌を思いっきり投げた時だった。


「ちょっと前を失礼させてもらいますよ」


壺内が有紫亜の前へ急に割り込んできて、鎖鎌を素手で触り、思いっきりふっとばした。

 その鎖鎌は草壁に直撃。血を流して倒れた。


「ガハッ!なんだ、この威力は…!!」

「俺の能力さ。相手にとっての一番の弱点を見つけて、それを行動に移すことでそいつは何もできずにやられちまうんだ。どうだ?すげぇだろ俺の能力」


 自慢するかのように壺内は笑った。


「クソ…が…」


 草壁は気絶した。弱点を見つけ出され、鎖鎌が直撃したのだから当然だろう。


「よぉし!さっさと行くぞ有紫亜さん!」

「ありがとう!やっぱり光士郎は頼りになる!」


 そう言われると壺内は得意気に笑った。


「待っててね、暉!」


 有紫亜は笑いながら言った。






 ギイイイイ…


 大きな扉は突如として開いた。


「扉が開いた!?」

「さぁ、入りなよ。暉。ボスがお呼びだ」


師音が言った。

 扉の先には、獲物を待っているかのように目を光らせた男が椅子に腰をかけていた…

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