第11話 計画開始
―暉が目を覚ますと、そこはさっきまでとは違う景色が広がっていた。
如何にも西洋の学園のような場所。周りには本棚が広がっていて、前には机とカーテンがある。自分は茶色いフカフカな椅子に寝ていたようだ。
「ここは…一体…」
突如、後ろからドアの開くような音が聞こえた。
「あー!起きてんじゃん!暉くん」
後ろにはピンクの髪をした男がいた。右目には音符のような模様がある。タトゥーだろうか。
「あ、貴方、一体誰ですか?」
「あー俺?俺の名前は今末師音。魔物討伐隊の幹部だよ。ボスがお呼びだよ。暉」
「な、なんで俺の名前を知っている?」
今末はただ笑って暉を見つめているだけだった。
「おいおい、あんまり痛めつけてやるなよ」
今度は水色の髪をした女性がそこにいた。
「師音、可哀想だろ」
「ごめんごめん理央!」
「…あんたもまた、誰ですか一体…」
「ん?私?私は櫻木里央。別に師音の兄妹ではないよ」
理央の左目のほうには音符のタトゥーのようなものがある。まるで師音とは対照的だ。
「それよりも暉、ボスがお呼びだ」
「え、ボス…?」
「あぁ、魔物討伐隊三代目隊長にして、最強の男、六車真逸という男がだ」
「魔物討伐隊…?何ですかそれ」
「はぁ?お前知らないの?」
師音は馬鹿にするかのように言った。
「えっ、す、すいません…俺、テレビとか見ないんで」
「はぁ…まぁいいや。暉にはこれからボスの恐ろしさを知ってもらういい機会だしな」
そう言って師音は六車真逸について、話し始めた。
「もう帰っていいか?私」
呆れたように師音に聞く理央。
「あぁ、いいよ。ボスに連れていくのは俺だけでいいし」
そう言うと理央は無言でドアを閉めていった。
そして師音はさっきまで笑っていた顔が、一瞬にして真剣な顔になった。
「じゃあ、話そうか。我らがボス、"六車真逸"について」
暉はつばを飲んだ。
―その時鳳城騎士団一行は暉が魔物討伐隊に攫われたことを踏まえた計画をたてていた。
「どうするんだ、お兄様。きっと魔物討伐隊はこれから人質として暉を使ってくると思いますよ」
そう有紫亜が言うと全員が驚いた表情をしていた。
欧介は静かに聞いた。
「何故?」
「前にお兄様に言った時…」
―あれは、魔人諸島の調査を終わりにした次の日だ。
黒龍に近い魔物を見つけた。その魔物は人の言語を喋れるほどの知性を持っていた。
有紫亜早速お兄様、欧介に電話をした。
しばらくコール音を聞いていると、欧介が応答した。
「もしもし?どうしたんだ有紫亜。急に電話してくるなんてさ」
「あぁ、お兄様?実は喋る魔物が魔人諸島にいたの」
「喋る魔物?そんなのたまにいる変異個体か何かだろ。疲れているのか?有紫亜」
有紫亜はしばらく何も言い返せずにいた。
「おーい、有紫亜?俺も忙しいからそろそろ切っていいか?」
「待って!最後に一つだけ…」
「なんだ?急に改まって…」
「もし、もしだよ?その黒龍の魔物が人間だった場合、お兄様はどうする?」
「うーん」
欧介は数秒考えた後に話した。
「人間だったら、それは魔人諸島の核心に迫れそうな気がする。たぶんの話だけど」
「…そっか」
有紫亜は安心した。
よかった。やっぱりお兄様なら私の気持ちを分かってくれる。私と同じ考え方をしてくれる。
いつも私のお手本になってくれる存在。
強くてかっこよくて優しくて、私もいつかそういう風に人を助ける存在になりたい。
「―だからここに入ったんだっけ…」
有紫亜は小さく言った。
「ん?どうした?有紫亜」
「いやいやいや!何でもないよ!ごめんね、急に電話してきちゃって。切るね」
「おう。じゃあな」
「うん!じゃあね」
そう言って有紫亜は電話を切った。
そして現在。
「仮にもし、魔物討伐隊が私と暉の出会いを見ていたとしたら、一部始終見られていたとしたら、暉は『鳳城騎士団にとっても核心的な存在』と思われると思います。だからです」
欧介はしばらく考えて答えた。
「その答えは半分正解で半分間違いだ。有紫亜」
「え?」
「俺は例えそいつがどんな悪行者だとしても、鳳城騎士団なら迷わず助ける。それが俺の使命なんだ。だから今回も問答無用で突入する。いいな?有紫亜」
「…はい!」
さっきまで悔しそうに見ていた団員達が段々とやる気を出していた。
「絶対勝つぞ!」
オー!
何百人もの声が一瞬にして響き渡った。
「よし!みんな!後は計画の通りに進めるだけだ!行くぞ!魔物討伐隊へ!」
そういって武器などを揃えに行くのだった。
そして魔物討伐隊本部施設。
「まず、六車真逸って知ってるかい?」
「…知りません」
「え、まじ?それはそれで逆にすごいわ」
「すっ、すいません…」
「謝る程じゃないし。まぁそっか。知らないのか。まぁ簡単に説明すると、六車真逸、ボスは鳳城剣也に並ぶ『無敗の漢』という称号を得ている。さらに霊長類最強の人間とも言われている。この事からわかるように、俺らのボスはとにかく強い。まずこれだけは知っといて欲しい」
「はぁ…」
「そして次、次にボスの都市伝説?みたいなのとして、『クマと素手で戦って傷一つできずに勝利した』とか『見たものは完コピ』とかまぁとにかく色々伝説があるの。でもさぁそれ、実は全部嘘なんだよね!」
「えっ…う、ウソ…なんですか?」
「そっ。嘘。実はそのちっぽけな伝説より遥かにすごいことしてんの。例えば『クマの群れ合計5匹近くいたのを傷一つつけずに勝利!』とか。『見たものは一瞬にして覚えそれ以上の実力を叩き出せる』とか、人間離れした記録出してんの、だからー、もう逃げようとしても無駄だからね」
師音は釘を差すように言っておいた。
「わ、わかりました…」
恐怖する暉。
でもそれを見た師音は突如笑い始めた。
「プッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「ど、どうしたんですか?壊れたんですか?」
「い、いやーまさか、こんなハッタリに騙されてくれるなんて思ってもいなくって」
そういって師音はぶり返すようにまた笑い出した。
しばらく笑い続けると、暉をボスの部屋へ案内してくれるといい、暉の先頭を歩いた。
「手錠とかかけなくていいんですか」
「いいんだよ。どうせ君、僕から逃げられないから」
「なんでですか」
「俺の能力"超能力"は、君をさらったように瞬間移動を応用した技を使ったり、念動力とかも使えるかな。そういう能力持ってるの。だから君は俺に勝てないよ」
「そうかっよ!」
そういうと暉は突如、師音が行っていいる行く方向とは全く反対の方へと走っていった。
「えぇ、暉バカ?」
そういうと師音は暉を超能力で捕まえた。
「グッ!」
「だから逃げられないっていってんじゃん。無駄な足掻きはやめなよ。僕も神経すり減らすんだよね!」
そういうと暉を思いっきり引っ張った。
その時だった。
グシャ
突如師音の顔面に暉の蹴りが入った。
そう。暉はこれを見越していたのだ。
師音が自分を引っ張った瞬間、すぐさま師音に蹴りをする体勢へと整えて、超能力の力で思いっきり蹴る。
顔面にモロに食らった師音は鼻をおさえながらもがいている。
「クッ、クソ!やられた!」
手から溢れるほどの血を流している。
「今なら逃げれる!」
そういうと暉は猛ダッシュで逃げていった。
しかし…
「やめなよ暉」
突如何者かに動きを止められた。
前を見ていると、そこには理央の姿があった。
「師音。こんな子どもに負けるとか正気?あとでボスにきっちり叱られてもらうから」
「わっ、わかったよ…」
師音は勘弁したように言った。
「さぁ暉。もし私たちの言うことを聞いてくれるんだったら、この能力から出してあげるんだけど」
そういうと理央は時計を取り出した。
しかしその時計は禍々しいオーラをまとっている。
さらに時計の針は動いていない。
「なっ、なんだよそれ」
「龍の目の応用。十夜も持ってるでしょ。あれをさらに強化したのがこの時計。残念だったね。私達はあんたにやられるほど弱くはないよ」
「く、わ、わかったよ…」
「わかればよし」
そう言うと理央は能力を解除した。
暉は諦めたかのようにして一歩も動かない。
「さぁ!早くボスへ会いに行きましょう!」
手を叩くと理央はそういった。
―灯り一つ灯らない場所を暉たちはずっと歩いていた。
「ねぇ、いつまで歩くの、これ」
痺れを切らしたかのように暉はいった。
「もうすぐだよ暉」
ダルそうにいう師音。
もう少し先へ進むと、そこには巨大なドアが前にあった。
暉の何十倍も大きなドア。
「さぁ着いた。ここがボスの部屋」
「ご案内してあげますよ」
二人はそう言って、扉の前へ立った。
暉は固唾を飲んでドアへも近づいていった。




