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魔人諸島〜魔物になった者の生き方〜  作者: 飛鳥川碧希
第1章 魔物と人間編
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第10話 表彰式

「ハッ!!」


―有紫亜が目を開けると、傷一つ無い天井が、あたり一面の視界を覆い尽くした。洋風の窓から入ってくる風は、少し強い。また、窓から溢れ出てくる木漏れ日は、緑色だ。音一つなさすぎて、逆に耳鳴りがしてくるほど静かな部屋。まるで病室かのようなベッドに包まれている。


「ここは…休憩室?」


 有紫亜はそっと床に下りた。


「うっ…傷が…痛い…!」


まだ有紫亜の腹部の斬傷は痛みが残っていた。恐る恐る服をめくると、そこには包帯で巻かれていた。血が少し滲んでいる。

 さっき勢いよく動いてしまったせいだろうか。


「そういえば、結局、勝てたのかな…ここに私が居るってことは勝てたのかな…」


 何度もその事を考えながらも、すぐ左にあった真っ白な扉の、金色に輝くドアノブを触り、回し開けた。そこにはまるで学校のような廊下が広がっていた。同じような扉が幾つもある。


 有紫亜の最後の記憶は、魔物に腹部を斬られ、あまりの痛さで気絶していたところまで。

 その後何があったのか、まったく分からない。


 取り敢えず、廊下の右を歩いてみた。いつまでも続くような長い廊下だったが、しばらく進むと階段があった。その下からは何か話している声がする。階段を一段一段、丁寧に降りていった。

 どこからか声がする。誰かの声だ。三人ちかくで話している。


「下に誰かいるのかな」


恐る恐る階段を下りると、そこには暉がいた。木室も、宮久保もいる。

 元気そうに話す三人をみて、有紫亜の目からは自然と涙が出ていた。


「だからさ…」

「暉ー!!」


有紫亜は勢いよく暉に抱き着いた。


「あちゃーヒカルン」

「有紫亜が正気を失ったのか」


呆れたように有紫亜を見ている木室と宮久保。


「暉…暉!勝ったんだね…勝ったんだね!」

「あの…苦しいです…」


暉は苦しそうに言った。

 有紫亜は急いで離した。


「ごめんごめん。生きてたってことが嬉しかったから。よくあんな化け物に勝ったね。どうやって勝ったの?」

「えぇ、あぁ、そういうこと…まぁ団長が戦って勝ってくれましたよ。傷一つなかったから圧勝かなと」

「えっ、私のお父さんがいたの!?」

「えっお父さんだったの!?」


取り乱す二人は、段々と笑いがこみ上げ、声を出して笑っていた。


「水を差すようで悪いが、今日は表彰式の日だ」


木室は言う。


「表彰式?なんですかそれ」

「あぁ、半年に一回あんだよ。誰が一番魔物を倒したとか。誰が一番働いたとか。そんな感じ」

「なるほどです…」

「よっしゃ!それじゃ行こ!多分ヒカルンが表彰っしょ!」

「そうだね!行こ、暉」


有紫亜と宮久保は急ぎ足でどこかに向かっていった。

 ただ残ったのは暉と木室のみ。木室はポツンと言った。


「暉。俺らさ、役に立てたかな」


悲しそうに言った。


「えっ…」

「いや、不意に思ったんだ。果たして俺らは魔人諸島に行く意味あったんかなって」

「…とても活躍していましたよ。木室さんは瞬間移動の能力を使って有紫亜さんを助けてくれたし、宮久保さんは俺がみんなを運ぼうとした時に協力してくれたし。二人ともかっこよかったし活躍していましたよ」

「そっか…例えそれが嘘だったとしても、嬉しいよ」


暉と木室は二人を追いかけるように歩いていった。





 ―その頃剣也は、ある研究室へと足を運んでいた。開かれた鉄の扉の奥には、女性がいた。美甘だ。


「久しぶりです。お父様」


剣也は荒い息で研究室内に入っていた。右手を抑えている。


「どうしたんですか?お父様」

「…まだ結婚もしてないのにお父様とはな」

「ハハッ、すいません」


謝る杏奈だったが、その顔は笑っていた。


「で?どうしてここに」

「…私は、今日で団長を引退する」

「えっ?」


さっきまで笑っていた顔が、一瞬にして曇った顔になった。


「私は、これで終わりにする、引退するんだ」

「えっ…じょ、冗談ですよね?」

「この目が嘘の目に見えるか?」


そういって鋭い視線を美甘に向けた。


「ちっ…違います…」

「もう既に誰が第二の団長になるかは決めてあるんだ。今日の表彰式の前に先にそれを知らせようと思っている。だから美甘、いつもサボっているお前も出席しろ」

「わかりました…」


 そう言い残して剣也は右手を抑えながら研究室を出ていった。


「あの…治療、いいんですか?」

「いい。今までの痛みに比べれば大したものでもない…」


ドアを閉めた剣也。研究室は静まり返った。


「…嘘つき…」





「これから、表彰式を始めます」


 集められた場所には何百人もの人達が同じ服を着て立っている。

 暉は緊張しながら隣にいた宮久保に小声で聞いた。


「あのー…これ、何が始まるんですか?」

「さっきもいったじゃん、表彰式だよ表彰式」

「これがですか…?」

「そうだけど?」


宮久保は何事もないかのように言った。

 前には誰かがいて、何かを話している。


「まず表彰式の前に、二つの重大報告があります、まず一つ目は、鳳城剣也」


"鳳城剣也"という言葉を聞いて、何百人もが一斉にざわつきはじめた。


「えー…鳳城剣也団長が、引退することになりました」


その言葉を聞いて、周りは全員唖然とした。

 ざわつきは一瞬にして消えた。


「おいおいまじかよ」

「これから誰がこの鳳城騎士団を支えていくっていくんだ」

「十夜さん?有紫亜さん?誰が変わりを…」


そんな声がちらほらと聞こえてきた。

 段々と静かになっていくと、気を取り直したかのように前にいる人が言った。


「そして、鳳城剣也団長、いや元団長が推薦した人がいます」

「推薦…?」

「団長が推薦するんだからきっとあの人だな」

「あぁ、絶対そうだろう」


周りは確信したかのようにまた声が聞こえてきた。


「その人を、今から紹介致します。鳳城騎士団第二代団長は…鳳城欧介(ほうじょうおうすけ)さんです!鳳城欧介さん、壇上へお上がりください!」


そう言われると、手を上げながら壇上へ上がってきた男がいた。金色の単発、聡明そうな人が一段一段、また一段と壇上への階段を上がっていった。

 そして、マイクを取り出し言った。


「やぁ皆さん!初めましての人もいるかも知れません!改めて自己紹介をします!俺の名前は鳳城欧介!年齢二十四歳!鳳城騎士団に入ってから九年が経ちます!皆さん、最高の騎士団を創り上げていきましょう!」


その声に全員が手を上げ「オーっ!!」という声が聞こえた。

 そしてまた他の声も聞こえる。


「キャー欧介様素敵!」

「やはり誰よりも王が相応しい漢です!」

「壇上へ上がって欧介様の声が聞けるだけでもありがたいです!」


と、女性達がうちわなどを持ってまるでアイドルを応援するかのようにしている。

 それに気づいた欧介はそっちの方へ笑顔と手を振った。

 また、それに気づいた女性達は「キャー!!」と叫んでいる。


「さぁ、皆さん!もう一つの重大なお知らせを話します!それは…榮元暉!君が昨日魔神を討伐したということだ!」


 突然"榮元暉"という言葉を出した欧介。それを聞いた周りの団員、宮久保、木室、有紫亜、そして暉までもが驚いた。


「えっ、俺!?いや、俺は討伐してないんだけど…」

「父上から聞いたぞ、暉、君がギリギリまで魔神の体力を減らせたから勝てたと!」


自信満々に言う欧介。

 それを聞いた周りは


「魔神討伐!?ってか魔神って伝説の生き物じゃなかったのかよ!」

「どこで倒したのかは知らんけど、すげぇな!その、ヒカル?ってやつ!」


と暉を称賛する人達がいる一方、


「どうせ周りがギリギリまで体力を減らしてくれたからだろ」

「魔神討伐したからって騒ぎすぎ。鳳城騎士団は最強だから当たり前だっつーの」


という批判に近い言葉もあった。


「暉、壇上へ上がってきてくれ」


欧介は暉を指名した。

 暉は欧介の言われるがままに壇上へと一歩一歩踏み出していった。階段を一段一段、また一段と落ち着いて上がっていき、やがて欧介の近くまで来た。


「皆さん!これが榮元暉です!是非目に焼き付けてください!」


それを聞いた人達は拍手喝采をした。


「暉、何かみんなに一言言ってくれるか?」

「えっ…い、いいですよ…?」


そういって欧介は持っていたマイクを暉へ渡した。


「えっーと、どうやって使うんですか、これ」


暉はマイクの使い方を全く知らなかった。


「え、普通に声を出せば大きな声を出せるけど…?」

「え、そうなんですか?技術の進歩って凄いですね」

「お前一体いつの時代を生きてきた人間だよ」


呆れたように話す欧介。

 暉は深呼吸をして声を出した。


「あー、えっと、皆さんこんにち…」


 突如、暉の背後に裂け目のようなものがでてきた。そこから白い手が二つ出てきた。


「あー!やっぱここにいたんだ!ずっと探したんだよ〜暉くん♪」


白い手は暉の服を掴み、そのまま裂け目へと引きずり込んでいった。


「暉!」


慌てて手を伸ばす欧介だったが、それも虚しく連れ込まれてしまった。

 手を下ろした欧介。


「なっ、何がいったい、どうなってるんだ…」


焦る欧介。

 事態が急変した事をいち早く理解した有紫亜たちは、急いで壇上へと上がった。


「お兄ちゃん!暉はさらわれたの…?」


欧介はつばを飲み答えた。


「こんなこすい真似をするのは…『魔物討伐隊』しかいない…」


それを聞いた有紫亜たちは汗を流した。





 ―暉が目を覚ますと、そこはさっきまでとは違う景色が広がっていた。

 如何にも西洋の学園のような場所。周りには本棚が広がっていて、前には机とカーテンがある。自分は茶色いフカフカな椅子に寝ていたようだ。


「ここは…一体…」


突如、後ろからドアの開くような音が聞こえた。


「あー!起きてんじゃん!暉くん」


後ろにはピンクの髪をした男がいた。右目には音符のような模様がある。タトゥーだろうか。


「あ、貴方、一体誰ですか?」

「あー俺?俺の名前は今末師音(いますえしおん)。魔物討伐隊の幹部だよ。ボスがお呼びだよ。暉」

「な、なんで俺の名前を知っている?」


今末はただ笑って暉を見つめているだけだった。

魔人諸島の掟

10.魔人諸島に行くには、能力を持っていないといけない。持っていない場合は、お金を払い武器を購入しないと魔人諸島へ行くことはできない。

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