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魔人諸島〜魔物になった者の生き方〜  作者: 飛鳥川碧希
第1章 魔物と人間編
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第1話 喋る魔物

 ここは、世界で唯一魔物が生まれる島、「魔人諸島」。

 魔人諸島には、人が頻繁に出入りする。魔物を狩り、魔物を売るものや、騎士団などの団体が魔物達を調査しに来ることもある。様々な人が魔物狩りをしている中、ある団体がいた…


「これでもうここら一体の魔物の調査は終わりだな」


彼女の名前は鳳城有紫亜ほうじょうありしあ。鳳城騎士団の総合隊長。騎士団の中でも身体能力がずば抜けて高い。騎士団長である鳳城剣也ほうじょうけんやの娘である。父親はいつも有紫亜に対して厳しく、何を成そうとも喜んでくれることは一つもなかった。何とかして、父親に喜んでもらいたい。褒められたい。一回でいいから「頑張ったな」とか言われたい。そんな気持ちを思い抱いて、必死に任務や調査を行なっている。


「ええ。取り敢えず異常なしっすね」


安心する有紫亜の側近、蒔田龍仁まきたりゅうじ


「安心するな。そうやって気を抜くと、いつか痛い目に遭う」


油断をしないもう一人の側近、小黒克道おぐろかつみち


 三人は同級生である。小学生の頃から仲がよく、喧嘩をしたって数日経てば何事もなかったかのようにいつもの日々に突然戻る。それほど仲が良い。中学生の時に有紫亜が鳳城騎士団の団長の娘と聞いた時には少し驚いたが、それと同時に、力になりたいと二人は思い、必死に体を鍛え、勉強し、今では有紫亜の側近が許されるようになった。


「全く毎週毎週、ほんと大変です。それに比べて有紫亜様はやっぱ弱音吐かずにここまでこれて、やっぱ凄いっすわ」

「有紫亜様、いや有紫亜は昔から努力をしていた。俺達が努力し始めるよりもずっと昔から。だから肉体的にも精神的にも有紫亜の方が強いのは当たり前だ。それでも、俺達は有紫亜についていくと決めただろ」


 二人は、有紫亜に対して、明確に信用、信頼、そして尊敬をしていた。

 そして何故ここまで魔人諸島の調査をするのか。毎週一回、多い時には三回以上調査が入る魔人諸島。毎回決められた範囲の魔物共を討伐して、周囲を確認して、異常がなければそれで調査は終わる。そこまで調査する理由は、謎が多いためだ。特に魔物は何故、ここで生まれるのかが分かっていない。詳しい文献も残されていない。しかしそんな危ない島に入るものもいる。ここには法律などのルールは存在しないのだ。そのため、ここに来る人達は勘と本能で行動しなければいけない。なので、ここにくる人達は金が今すぐにでも必要な人だけだ。そうしてここに来た人達の中には死傷者も多い。死傷者を助けるのも、団体の役目なのだ。

 そんなこんなで船に乗って帰ろうとしていた頃だった。ソロソロと人間ではない音が後ろから聞こえてくる。


「た、助け、て」


後ろから声がした。これは人間の声だ。でも何故かその場にいた三人は何故かその声の主が人間ではないと感じ取った。何か、おどろおどろしいような何か。これはきっと魔物。慎重に慎重に一斉に後ろを振り向くと、そこには倒れている魔物がいた。黒龍みたいな体をした魔物。苦しそうに地面を這いずっている。腹には大きな切り傷が残っており、大量に出血している。ほおっておいたらこのまま死んでしまいそうなぐらいだ。


「おいおい、また魔物の相手しなくちゃいけないのかよ」

「全く。魔物もいい加減学習して欲しいものだ」


 側近の二人はいつもの事かと魔物を倒そうとしていた。が、しかし有紫亜だけはこの現状に対して、落ち着きがなかった。


(魔物が人間の言葉を発する…?一体どういうことだ。魔物は普通、知性を持たずに本能で人々を襲う。しかし、こいつには言葉を発する知性もあれば、本能を抑えることもできる。一体これは…)


…そこには数秒間の沈黙が続いた。いつも必死な有紫亜がこの件に関しては、魔物を倒そうとしなかったからだろう。


「はぁ、とっととやっつけるぞクロ」

「あぁ。さっさと倒して、さっさと帰ろう」


 二人が魔物を倒そうと足に力を入れ、走った時だった。


「待って!!」


有紫亜の迫力。走っていた二人はピタッと止まり、有紫亜のいる方にそっと振り向いた。有紫亜は続けて言った。


「待って、その魔物、魔物なのに人間の言葉を発せる!今までここを調査してきた中で、そんな事、一度もなかった!この魔物は研究するべき…だから、倒すのは、やめて…」


少しずつ力が抜けていくように話した有紫亜。きっと、この喋る魔物に対して、何か興味などに近い感情があったのだろう。


「…でも、生きた魔物を島の外に持ってくことは、禁止されています。どうしても持っていきたいなら、とどめを刺さないと。」


呆れたように話す蒔田。


「リュウの言う通りです。仮にこいつを持っていったとして、暴れたら全て有紫亜様の責任になってしまいます。」

「でも、何か、何かが違うの。他の魔物にはない、その…知性とかが、この魔物…ありそうだから…」


どんどん力をなくしていく有紫亜。

 数秒の沈黙。側近の二人は考えた。この魔物を島の外に持ってく方法を。自分達は有紫亜がずっと子供の頃から見守ってきた。周りより優しいのも、勇気があるのも、父親に認められたいのも知っている。確かに喋る魔物というのは何か不自然だ。基本的に、魔物は知性を持たずに生まれてくる。もしかしたら、この魔物を研究することによって謎多き魔人諸島の核心に迫ることができるかも知れない、そう思ったからだ。


「うっ、ううぅ…」


魔物がか弱く唸った。三人は一瞬、攻撃をしてくると思い、構えの体勢をとった。しかし魔物は続けてか弱く喋りだした。


「何で、こんな事に、俺は、人間なのに、あいつらは俺を魔物呼ばわりして、高値で買えそうって、言いやがって、俺は、人間、な、のに…」


 苦しそうに、そして悲しそうに喋った魔物。目からは涙に近い体液が出てきている。それを見て、有紫亜はそっと近づいた。


「あ、あのー…有紫亜様?危ないっすよそいつの近くに行くの」


蒔田がそういうのも聞かず、魔物の前に行き、有紫亜は腰を下ろした。


「私の名前は鳳城有紫亜。君の名前、何ていうの?」


優しく言葉をかける有紫亜。魔物はそっと顔を見た。


「えいもと…榮元暉えいもとひかるです」

「君、本当に人間なの?」

「…魔物を売りに、ここに」


有紫亜は腰を上げた。


「どういう経緯かはわからないけど、どうやらここで魔物狩りしていたら、何故か魔物になっていたらしい。やっぱり、ここには何かがある。だからこそ、ここの調査は大切だ。急いで、この魔物を持ち帰り保管し、研究だ」

「はい、もちろんです。」

「早く帰って今回の調査結果を報告しましょう」

「うん。そしたら、この魔物も連れて行こう。」


 少し不服そうな顔をした二人だったが、さっきのように反対しようとする気にもなれない。きっと反対したところで無理矢理連れて行くに決まってる。そう思ったからだ。でも、心なしか連れて帰ってもいいと思える自分もいた。もしこの魔物が本当に元人間ならば、魔物は人間から生まれる、もしくは感染することによって生まれる可能性が高くなるからだ。この魔物は魔人諸島の大発見かも知れないからだ。

 そんな三人の中、魔物は気を失ったかのように、そっと目を閉じた。








―その後暫くして


(うっ、うぅ…)


 目を覚ました魔物。暗闇から光が灯ったような感じだ。さっきの魔人諸島とは打って変わって、今度は何故か船に乗っている。有紫亜と名乗る人間がここに乗せたのだろうか。体の方の傷を見ると、包帯が巻かれてある。これも有紫亜という人間がしてくれたことなのだろうか。


(何故だ…もし本当に俺を狩ろうとした奴らが見た()()()()というのが正しかったら、俺は魔物。生きている魔物を外部に持っていくのは原則禁止だ。何を考えているんだこいつらは…)


考えれば考えるほど疲れてくる。


「あっ、起きた」


 一人の男性がこちらが目を覚ましたことに気づいた。


(うっ、起きたのがバレた。もしかしてこいつら…俺を実験体にするつもりか…?)


理解が追いつかない。一体何をするつもりなのか。全く想像できない。もしかしたら自分の想像を遥かに超えることを、俺の体でしようとしているのか、そう考えると余計怖くなってきた。


(この後、自分、どうなっちまうんだろう。死ぬんかな、死ぬんかな…俺…)


「おいおいどうしたんだ。まだ傷が痛むか?」

「ホントに大丈夫なのかこんなの持って行って」


男性二人がこちらを見ている。そして、さっきも見た有紫亜と名乗る女性も来た。


「もう大丈夫。あとは連れてくだけだから。一応止血もした。」


(一体何を考えているんだ…)


「大丈夫よ。別にあんたを取って食おうって魂胆じゃないから。私達はあんなのその体質に興味があるの。」


(やっぱり研究か…くっ…こんままじゃ、金が稼げねぇ…母さん…)


睨むように顔を見上げた。頑張って逃げようと動こうとしても、体が言う事を聞いてくれない。体全体が震えて、動けない。

 魔物はまた、眠るように、目をそっと閉じた。





―次、また目を覚ますと、今度は如何にも()の家の中、部屋の中にいた。ご丁寧に布団まで敷かれてある。


(普通、人間でもない魔物を人ん家(ひとんち)の家に上げて、布団の上に寝かせるか?)


魔物は考えることすら面倒になり、数秒動かずにいたあと、静かに、横になった。

魔人諸島の掟

1.魔人諸島で発生したとされる魔物、魔人を生きたまま島の外部に持っていくことは、原則禁止である。

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