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三十四話

柚の目の前には大きな洋館。赤い屋根に白い外観。洋風の二階建てで全体的な簡素な造りになっている建物。屋根には最近書かれたであろう『写真館』の文字が並んでいる。

明治時代は現代みたいに手軽に写真に残せるということはなく、写真を撮るには写真館という場所に足を運ばないといけなかった。趣味用カメラとして日本で大量生産されたボックスカメラは撮影した乾板(かんぱん)を簡易な落とし機械によって順次底部に落とすという手間のかかる代物であり、値段もそう易々(やすやす)と手が出せる物ではなかった。

「写真館って初めて入ったけど、人いないんだね」

スタジオをぐるりと見渡しながら内装を観察する坂田。

「やめろー!写真を撮られると魂を抜かれるんだぞ!」

「うるせぇ!」

「渉も声の大きさを考えろ、迷惑だろう」

などと叫んで逃げようとする颯介の首根っこを掴み、押さえつける田中と咲真。

「あの…撮って良いですか?」

数メートル先にいるカメラマンが困ったように声をかける。

「すみません、こいつらを大人しくさせますので」

申し訳ないという顔で謝罪をする虎太郎。

「大山くん、柚さんの隣は僕です。こればかりは譲れません」

「奇遇だねー、俺も同じ」

どちらが柚の隣になるかで火花を飛ばしている井上と勇。

「あのぅ、やっぱり私だけ椅子に座るなんて…」

一人だけ椅子に座らされている柚は申し訳なさそうに後ろを見る。

「お前らもか…」

がくりと肩を落としてため息をついた虎太郎。

その後、何とか写真は撮れた。

「俺…生きてる」

「良かったなー」

などと会話を交わしながら歩いていると、勇がひとつの店の前で立ち止まった。店には動物の小物が並んでいる。

「柚ちゃんの干支って何?」

小物を見ながら勇は呟いた。

(うし)年だったと思います」

そう答えると勇は店に入っていき、小物ひとつを手に取って会計を済ませてしまった。

「はい」

勇に渡されたのは羊の根付(ねつけ)だった。何で羊?

「えっと…?」

「あ、そういうことですか」

納得したように井上が手を打ち、説明をしてくれた。

「向かい干支を大切にすると幸福が訪れると言われているんですよ。例えば(ねずみ)年なら馬、寅年なら猿ですね」

まごつきながらも手の平サイズのころんとした羊の根付を財布に付けた。動く度に揺れて可愛い。

「ありがとうございます!」

しばらく歩いていると、道場のような場所に着いた。

道場は広く、ざっと十人程の青年達が道着を身にまとって竹刀で打ち合いをしていた。

「週に三回、この道場を借りて打ち合いをしているんだー!討伐課の訓練の厳しさは陸軍でもビビるくらいなんだよね。勿論、鬼みたいな指示を出す上司のせいなんだけど〜。ま、そのお陰で死ニカエリ相手にも怯まず戦えるんだよね〜」

など颯介が話していると、「いらっしゃい、今日は打ち合いですか?」と七人に横から低い声がかけられた。

「あ、今日は近くを通りかかっただけですのでお構いなく」

虎太郎が丁寧に言うと男性は「そうですか…」と残念そうに言った。

その時、道場に通っている青年の一人が「一本どうですか!」と壁に立て掛けてあった木刀を虎太郎に差し出す。

「何で僕!?」

「お願いします!!」

「そうは言ってもなぁ…」

しばらく考え込んでいた虎太郎だったが、最後には躊躇いつつも木刀を手に取った。

「じゃあ、一本だけな」

頭を掻きながら虎太郎は道場の真ん中へ向かった。

「竹刀じゃないんですね」

「僕達はあくまで実戦で使うだけですから」

道場の真ん中に目を向ける。

「お願いします」

「お願いします」

二人が互いに礼をし、早速試合が始まった。

柚の素人目で見ても、青年の方は積極的に打ち込んでいく。一方の虎太郎は涼しい表情で、その攻撃を次々に受け流す。

(凄い…)

おそらく虎太郎は相当腕が立つのだろう。まだまだ余裕がありそうだ。

宇佐見(うさみ)と虎、どっちが勝つと思う?宇佐見は今、虎と打ち合いしている人ね」

ふと、隣から投げかけられた問いに柚は少し驚く。まさか、坂田から話しかけられるとは思わなかった。

しかし、どちらかと言われても答えるのは難しい。

試合の方に目を向ける。

虎太郎は未だ攻撃を(かわ)すばかりで反撃していない。

わずかに迷って、

「…虎さん、だと思います」

と、正直に感じたままの答えを返せば、腕を組みながら坂田は静かに頷いた。

「だろうね」

いつの間にか、道場にいた他の青年達も興味津々に二人の試合を見ている。

「頑張れー!」

「虎に負けるなー!」

「来年から師範(しはん)学校に通うんだろー!」

そんな声がちらほらと上がった。

宇佐見は教員を目指しているようだ。

丁度その時、試合を観戦していた人達がどっと沸いた。

どうやら一瞬の隙をついて、虎太郎が相手の木刀を叩き落として勝負が決したらしい。

「ありがとうございました」

「…っ、ありがとう、ございました」

宇佐見はそう言ってバタリと倒れた。

体力をかなり消耗したらしく、息が上がっている。

「宇佐見、大丈夫?」

颯介は宇佐見に駆け寄って、自前の扇子で風を送る。

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