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三十話

そして大山邸に笹倉が訪れたのは押し問答があった次の日の今日。正午を知らせる午砲が響いて間もない時分だった。

昨夜は勇の煽りと牽制(けんせい)によって拘置所送りになるのをどうにか免れた柚だったが、話は当然それだけで終わらなかった。笹倉は勇に「明日、改めて本件についての協力を要請する」と言い残し、警視庁へと戻って行ったのだった。

「やぁ笹倉殿、ご足労だったね」

サンルームへと迎え入れた勇は、まるで友人の来訪を歓迎するかのような穏やかさで対応した。一方、官帽を目深く被った笹倉はにこりともせず、震える手で番茶を運ぶ柚を射抜くように見据える。

「さてさて、昨日は大変だったよ。君が帰ってから釜を見たら底の方の米が黒焦げだったんだよ、その掃除をしようとしたら中々取れないし!!」

確かに昨日の釜は焦げが何時もよりこびり付いていたので掃除しにくそうだったが…今ここで言わなくても良いと思う。

「ま、その話はさておき。昨日来た理由を尋ねても良いかな?柚ちゃんが言うには柚ちゃんの友達の居場所を知りたいんだって?」

それは、柚がずっと考えていたことだ。椿がどうして警察に追われているのか、知りたかった。

「そんなの、貴様に言う理由などないだろう」

笹倉がサーベルを抜くのではないかとビクビクしていた柚だったが、幸いなことに彼の手が柄に触れることはなかった。だが、その指は苛立ちげに肘掛けを叩いている。

「理由ならある。高等課がただの女学生を探しているとは思えないし、間諜(かんちょう)の場合は陸軍省や高等課の管轄(かんかつ)下に置かれる。それに、少しこっちでも困っていることがあってねー」

「…………」

「置屋に現れる強力な死ニカエリ。そいつは壊れる前に次の人を呑む、大変危険な奴だ。大方、そいつ関連なんだろう?」

「相変わらず察しが良いな」

「いや、虎と田中が高等課の長官を脅して…ゲフンゲフン、じっくり話し合いをしていたっていうのを咲真から聞いたから」

「…そうか。なら我々が綾辻椿を探しているのか分かるな?」

「まぁね、高等課は神楽坂の騒動の時に綾辻椿が近くにいたことにより、今回の騒動の犯人は彼女と疑っている。彼女を探し出してどうするつもり?」

「取り調べを受けさせる。…高等課なりのやり方で丁寧にじっくりとな」

冷えた無機質の声。膝が震えているのが分かる。柚はお盆を抱えたまま、刺すような笹倉の視線を感じていた。

(取り調べって、どんなことをするの?)

現代から明治時代へタイムスリップしていた柚は警察の世話になった記憶など勿論ないから、どういった手順で行われるのか分からなかった。だが、昨日と今日の笹倉の態度を見るに、暖かく迎え入れられないことは想像できた。

(椿ちゃんが…死ニカエリに…)

死ニカエリが人を呑むということは、完全に同化してしま…じゃあ、椿ちゃんは。

自分でも手が震えているのが分かる。嘘だと信じたかった。酷いと思った。どうして椿ちゃんが…。

頭の中が真っ白になった。

「柚ちゃん…?」

涙目になる柚に勇は気付き声をかけるが、同時にしまった!という表情をする。

「ごめんなさい…少し部屋に戻ります」

そう言って、柚はフラフラと部屋を出て行く。止めようと勇は手を伸ばしたが、何て声をかけるべきなのか分からなくて声が出ず、行き場をなくした手は空中に漂っていた。

「あ…」

「話して良いか」

笹倉はどこか呆れ混じりに話を続ける。

全てを聞き終わった後、勇は顎に手を置き、ブツブツと呟いていた。その目は勇にしか見えない景色を追うように右に左に高速で動いている。

不意に、勇の動きが止まった。

「おい、どうした」

勇はゆっくりと顔を上げ、それから呆然と呟いた。「やられた…」

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