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二十四話

その夜、勇は何時もより少し早めに帰ってきていた。なんでも、少し早めに事件捜査が終わったようで、就寝時間には帰宅していた。

柚は布団に横たわったまま、ぼんやりと窓の外を見上げている。

彼に隠し事しているという罪悪感が、徐々ではあるが増幅(ぞうふく)していた。

(何で悪いことをしていないのに後ろめたいんだろう…)

正直に話せばすっきりすると思うのだが、中々口に出せない。タイムスリップのことも未来のことを教えても良いのか分からないし、なにより信じてくれないだろう。

(早く現代に戻りたいな…)

こうして一人になるとしみじみ思う。

家族や友達が待っている本来の居場所に帰りたい。ずっとこの時代にいれば、現代のことが忘れてしまいそうで、それだけが怖い。

「早く…」

早く現代に戻りたいと唇から零れ落ちそうな時だった。

月の光が差し込む窓際に、ぼんやりと黒いものが浮き上がる。初めはカーテンが揺れているだけかと思った。けれど窓はしっかりと閉められて隙間風は吹いていない。やがて黒いモヤのようなものは人の形になって柚の目の前に現れた。

人の形ではなく、人そのものだ。

柚は硬直した。瞬きするのも叶わない。秒を追うごとに人の形は濃くなり、やがて黒マントをなびかせた男性の姿になる。目、鼻、口がない顔が月明かりに照らされて―――

「う、うわぁぁっぁぁあぁ!!」

声を上げた瞬間、体が勝手に動いた。布団から起き上がり、脱兎の(ごと)く戸へと走った。

足元がふらつきながらも戸を開けようとするが、急ぎ過ぎて戸が上手くスライドしてくれず、ガタガタを音を鳴らす。背後に忍び寄ってくる気配に恐怖で意識を失いかけた時、

「―――柚ちゃん?」

戸が開いて、和装姿の勇が顔を覗かせる。

何時も元気そうな笑みを浮かべている彼は、心配そうな表情で柚を見下ろしていた。

その顔をひと目見たと同時に、柚は勇にしがみついていた。羽織を握りしめる。

「どうしたー?」

「おおおおお化けが…お化けがそこにっ!!」

必死に訴える。勇は死ニカエリが視えるから窓の方を指差して訴えるが、部屋を見渡していた勇はきょとんとしている。

「何もいないよ?」

「え…」

もしかして視えていないのかと思って窓際に目を向けるが、そこには何もいなかった。

「何で…?」

「死ニカエリの気配は感じられないねー、さては寝ぼけていたんだろー!」

勇の意見はもっともだった。

自分では寝ている自覚はなかったが、実は夢の世界に片足を突っ込んでいたのかもしれない。だがその一方で、あれは夢なんかじゃないと確信している自分もいる。

夢にしておきたいが、どうしても己の目に移ってしまった以上、本物のように思えてくるのだ。

「勇さん。もしかしてここっていわく付き心霊スポットじゃ…」

失礼を承知で尋ねると、勇は疑問符を浮かべていたがやがて理解したように言った。

「ここで心霊現象が報告された例はないなぁ…例え死ニカエリが現れたとしても、俺の親戚は俺以外視えないから」

死ニカエリを視ることが出来る人は少ない。

じわりと手に汗が滲む。

「さっきはすみませんでした…」

もう夜も遅い時間帯だというのに悲鳴を上げ、わざわざ家主を呼びつけてしまった。すると勇は大して気にする様子もなく、

「俺はてっきり泥棒でも侵入されたと思ったよ。でも、何事もなくて良かった」

「でも、近所迷惑とかは」

真面目な様子とは一転して、勇はさらりと笑い飛ばす。

「それは大丈夫だよー。植木や郵便ポスト、通行人に喧嘩を売る酔っ払いよりタチが悪くないから」

「そ、そうなんだ…」

(この時代の酔っ払いって一体…)

「怖かったら俺の部屋に布団持ってきて寝る?」

「え……?」

勇はすぐに、素知らぬ顔で(きびす)を返した。淡い笑みだけを残して。

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