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二十話

音寧は部屋の隅に置いてある鏡台の前に座り、がらりと引き出しを開けた。中から化粧品などの容器を次々と取り出し、台の上に並べていく。

「ほら、ボケっとしてないで顔を貸しなよ。ついでにその着物も脱いで」

「へ?脱ぐ??」

「そーそー。矢絣の着物も良いけど、やっぱり女は派手な着物を着なくちゃね!アタシの一張羅(いっちょうら)を貸したるから大丈夫だよ」

そういうものなんだろうか?柚はしばし考えたが、美人の言葉以外に説得力があるものは見付からないので、ここは素直に応じることにした。

「脱ぐって言っても襦袢(じゅばん)は脱がない!」

最後の一枚を脱ごうとした柚を音寧が制する。

「あ、はい」

「襦袢は着たままでここに座って〜。アタシが今から化粧をしてあげるから」

言われるまま鏡台の前に座った。椿は後ろの方でニコニコしている。

音寧はガチガチに固まる柚を落ち着かせてから化粧品のひとつを手に取った。

「そういやアンタ、化粧したことあるかい?」

「…ないです」

化粧など無縁に等しかった十七年。元いた時代では、乾燥肌がヒリヒリしないように化粧水をお風呂上がりに塗ったり唇の乾燥を防ぐ為にリップクリームを塗るくらいしかしていなかった。

「ふーん、アンタは化粧しがいがありそうだね」

褒め言葉なのか分からない言葉。褒め言葉として受け取っておこう。

無鉛(むえん)白粉(おしろい)の方が健康には良いんだと、そりゃそうだよね〜。色は良いけど鉛なんかずっと使ってたら中毒になっちまう」

音寧は『美人水』という液体と『無鉛白粉』と書かれた粉を器に移し、手早く混ぜ合わせる。

「いい?昼の化粧と夜の化粧は違うんだ。厚塗りをすればする程、肌は白くなるけど、時間が経つと乾燥してヒビが目立つだろ?」

賛同を求めるように説明する。だが、当たり前のように言われても柚にはよく分からない。

慣れた手付きで白粉を塗りながら音寧は話す。少し冷たい。

「アンタ、化粧もしたことがないんだろ〜?その惚れた男の前くらい化粧はしないと」

「い、いや勇さんは別にそんなんじゃ…」

何故か、じわじわと耳の付け根が熱くなる。

「ねぇ、その勇ってまさか大山勇じゃないだろうね」

白粉を塗っていた音寧が手を止めて尋ねてきた。

「勇さんを知っているんですか?」

「そりゃあ知っているさ。この東京で討伐課勤務の警察を知らない人はいないじゃないかな?」

思わぬところで勇の話が出て、柚は改めて彼の存在感を認識した。ますます自分の置かれた立場に気が遠くなる。

「何でも死ニカエリ関連の事件を捜査する部署らしいじゃないか。ってもアタシには視えないから分かんないけどね」

音寧はあっけらかんと笑って薬指に紅を乗せ、その色を柚の唇に移した。

彼女は、死ニカエリを視えないなら視えないなりに理解しているのだろう。普通なら疑うはずだし、子供の戯言程度に聞き流すだろう。

「死ニカエリのこと、信じるんですか?」

「まぁね、アタシは信じるかな。でも、御一新(ごいっしん)から何十年も経つから死ニカエリ関連の事件数は少なくなっているんじゃないかい?」

御一新とは、明治維新のことを指すらしい。

「そ〜ら、出来た」

鮮やかな赤に彩られた鏡の中の自分は、何だか別人のような顔をしている。

「椿もアンタと友達になれて嬉しそうだったからねぇ。何時でもアタシに会いにおいで。昼は稽古で夜は仕事だけど、夕方ならだいたいここにいるから」

「良いんですか?」

「ああ、良いんだよ。何かの縁かもしれないし、それに…」

音寧は目を細めた。

「アンタの恋話も聞きたいしねぇ」

やっぱり勘違いされている。

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