97 彼女が再び立ち上がる時
俺の...俺の乳母??
アルフレードは行動が止まった。
「あれ?侍従は記憶にあるんだよ。」
俺は顎に手を当てて思い出そうとする。
侍従は身の回りの準備を色々してくれた。それこそ、それを利用されて病のついた布で準備してしまったのだから記憶にある。
ずーっと記憶を思い出す。
あれ?
少しづつ記憶が改ざんされていたものが、ぼんやり浮かび上がってくる。
乳母の記憶はない。
だが、俺が病で隔離されていた時に、入ってはいけないという禁を破って小屋に入って世話をしてくれた使用人...
あれは侍女頭...メイド長じゃないか。
でも、そんなに俺に優しかったイメージはない。
アンジェリカのようにいびることもなく、他の使用人のようにこっそり優しいこともなかったが...
エドガー王に確認だな。
「あと、この家はアンジェリカ個人が借りていたみたいだ。
しばらくは継続して借りれるようにしておいた。高齢メイドへの連絡方法が、わからないしな」
ヘルマンはアンジェリカが連絡をしてくると思っている。
なんだかんだ言って結局信用してるんじゃないか。
俺は呆れてしまう。
「高齢メイドは住み込みだったから、家を借りておかないと連絡手段がないよな。」
と返答してしまう俺も、どこかで母を信じてしまっているんだろうが。
ーーー
エドガー王の元に戻って、今後について話し合いをする予定をヴィオラに伝えようと思ったが...
俺がいつものように、体を洗い、綺麗な服に着替え、さらにエプロン、頭巾、口布で覆って、部屋に入るとヴィオラは筋トレをしていた。
ん??
「アルフレード、やっぱり体が鈍ってるわ」
腹筋中だが、少し繰り返すだけで、ぐったり。
高齢のメイドが目を見張っている。
そりゃそうだろう。
「何やってるんだ!」
俺も慌てて、ヴィオラの体を支えて、止めようとする。
「何って、もう出産から3ヶ月近くなるんですもの。鍛え直しに決まってるわよね。部屋にじっとしているより鍛え直す方が丈夫になると思うの。」
汗を拭いながら、けろっと答える。
「病気になった訳じゃないのよ。ただ命がけで出産しただけよ。産み終わったら、体を動かしたいじゃないの?」
「そんな!!体調を崩したらどうするんだ?」
「世の中には次の出産をする人たちの方が多いのよ。いちいち崩さないわよ」
ヴィオラは笑う。
後継ぎを目的にする結婚は、とにかく産むことに専念するから次の出産もすぐの貴族も多い。
俺たちの場合はオリヴィアン奪還のことがあるし、メイドがいるとはいえ、セバスティアンを自分たちで育てる稀有な人間なので今は次は考えていない
....で
「そろそろ鍛え直さないとね」
となるわけだ。
「グリモワールの中部にいくなら、私の相手をしてくれる騎士団の人はいるかしら?」
「相手が嫌がるだろう。俺の妻で、奪還したらオリヴィアンの王になる女の相手なんて恐ろしくてしたくないと思うぞ。」
「そんなこと言ってはいられないわ。アルフレードが中部に来られるかどうかもわからないのに...エドガー王に、私に剣を教えてくれる人を頼んで!」
だんだんヴィオラが、本来のヴィオラになっていく。
腰に手を当て、本気でやらないと怒られる。
変わってないけど...
もうヴィオラに貞操はとられたから、奪われるもんなんてないぞ!
こっちも強気にいこう!
「祖父上だって、選んだとしても手を出さない騎士しか選ばないと思うぞ。怪我させたらとんでもないことになる」
「アルフレード!!私の性格知ってるわよね。そして、私は王になるためにもう一度戦おうと思ってるの。ヴァルトシュタインは、女の王だからって手を抜いてくれるのかしら?」
怒りとともに髪も目も吊り上がってくる。
ひーっ!!
「わかったわ。私は勝手にグリモワールの騎士団に参加するわ。それがダメなら、山に行って獣相手に戦ってくるわよ!」
本気で、怒り出した。
山の獣って、クマか?猪か?シカか?狼か?
本気で戦いそうだ。ダメだ!
殺気を感じて、セバスティアンが泣き始める
わあああん!わあああん!
ほら完全泣きだ。
ひと月程の間に、セバスティアンの鳴き声も家から外に響く力強さだ。
俺は、急いで抱き上げる。
赤ちゃんのひと月は大きい。
ずしっと重くなる。
手足をバタバタ動かし始める。
「よしよし。お母様は怒ってないからな。あれはいつものことだ。セバスティアン、早く慣れるんだ」
俺は急いであやす
これから大きくなって活動量も増えるし、高齢メイド3人だけでまわすのはやっぱり無理だな。
だが、そんな未来の想像よりも、ふっと恐ろしい視線を感じる。
ヴィオラが目に涙を溜めてぶるぶる怒りで震えている。
あ、俺失言したのか...
「アルフレード...もういいわ!私、猪と戦ってくるわ!!」
プチンと、ヴィオラの心の琴線が切れる音が聞こえた気がする。
「ご、ごめん。違うんだ!セバスティアンを泣き止ませようとしただけなんだ!ヴィオラ!ヴィオラぁ!!」
俺は焦って叫んだ。




