96 家族という未知
少し日々が落ち着き、俺――アルフレードはヘルマンと今後のことを相談することにした。
南部に残してきた仕事も、そのままになっている。
そろそろ、今後ヴィオラとどう過ごすのか、俺がいない時に、誰がヴィオラを守るのか考えないといけない。
まずは、ヘルマンと海軍兵を一旦グリモワールに亡命させ、俺付きの兵として登録する。
これで身分も保証されるし、王城の目もごまかせる。
次は――ヴィオラと息子セバスティアンの移動だ。
悔しいが、アンジェリカの言う通り南部は治安が悪く、感染症も怖い。
北部はヴァルトシュタインに狙われる危険がある。
そう考えると、中部が正解かもしれない……。
「でもよ、アンジェリカが“中部に行け”って言ったんだろ? ヴァルトシュタインに筒抜けじゃないのか」
ぶつぶつ言いながらも、俺はため息をつく。
実力のある騎士団がいるのは中部だし、守る力があるのも確かだ。
セバスティアンの首も、ようやく安定してきた。
あと一ヶ月もすれば、しっかり座るだろう。
冬が本格化する前に移動したい。
馬車は冷えるのだ。
「布でセバスティアンを固定したら、移動中はずっと揺れから守るために抱っこだな。……体力を考えると、俺が抱えた方がいいか」
ヘルマンが眉を寄せる。
「アルフレードが抱っこしてたら、夫に抱かせる悪妻だって姫が悪く言われるんじゃないのか?」
「……なんだそれ。息子を抱くくらい自由にさせろよ……」
思わず肩を落とす。
世の中は“育児は女の仕事”と思ってるやつばかりだ。
まったく、時代が遅れてる。
「じゃあ、こうするか。片時も離れたくない夫って設定で行こう。ヴィオラが抱くときだけ窓を開ける」
俺は、とにかくヴィオラからも、セバスティアンからも離れたくないんだ。
俺が抱っこしたら、泣き止むことが増えてきたからな。
あの甘い香りにうとうとしてる顔を見たら、幸せってこういうことをいうんだなと実感できる。
「それは設定じゃなくて、いつものお前だろ」
ヘルマンが吹き出す。
……うるさい。
「高齢のメイドは三人、グリモワール行きを了承してくれたけど、もう少し欲しいな。あと、定期的にメイド宛の連絡がないか見ておきたい。アン夫人...じゃなかったあの女が連絡をよこすと言っている」
ヘルマンのいう通り、本当は今でも欲しいのだ。
ただ、アンジェリカのいうように都市国家で乳母を雇うのはリスクが高い。
都市国家にいないと入らない情報もあるかもしれない。
「グリモワールからメイドを連れてくるのは?」
「王城のメイド長がな……アンジェリカもあいつを信用してなかった。連れて行かなかった訳だし...信頼できる人材じゃないんじゃないか」
いや、アンジェリカが連れて行かないってことは信頼できるのか?
訳がわからなくなる。
アンジェリカに俺の頭が侵食されていく。
「人選は難しいな。王子の教育にも影響するだろう」
「そうなんだよ。グリモワールには仕切れる女性がいない。
フェリックス王の母は産後すぐに亡くなったし、父は持ち上げる連中しかそばに置かなかった。アンジェリカは論外、オリヴィアンからは派遣できない……」
そう考えると、アンジェリカは...母は孤独だったのだろうか。
自分の実母もなくなっていたし、この国に育児で頼れる人はいなかった。
ヴィオラに育児書を渡せるぐらい、育児のことを調べていたのだろう。
「アルフレードの弟は?結婚してるのか?」
「ヴァルターか。あいつも結婚してない。父上は俺は婿養子にしたし、ヴァルターにも関心がなかったらしい。……本当に、何がしたかったんだろうな」
エドガー王に頼むか。
貴族の奥方か、騎士団の妻で育児経験あるメイドを集めてもらうのが現実的だ。
そう考えていた時、ヘルマンがふとつぶやいた。
「アルフレード、お前の乳母は誰だ?」




