94 託された国、誓った命
セバスティアン王の手紙は、見慣れた文字ではあったが、どこか震えているようにも思えた。
俺は震える指先で一人その封を開けた。
俺の手元に来るまで、ヘルマンとヴィオラが守ってくれた大切な手紙だ。
アルフレードへ
この手紙を読んでいる頃、私はもうこの世にはいないだろう。
だが、君のもとにヴィオラとお腹の子が無事にたどり着いていることを信じている。
どうか、そうであってほしい。
本当なら、こんな冬に、ましてや戦争の中、ヴィオラを外になど出したくなかった。
雪が降り積もる中で人の世話をさせるなんて、本来ならあり得ない。妊娠している彼女こそ守られるべき存在だ。
だが、彼女はそれを望まない。
だから私は彼女の意志を尊重した。
――それでも、無事に産まれてくるかは心配でならない。
もしお腹の子供に何かあっても、ヴィオラのせいでも、ヘルマンのせいでもない。
すべて命令を下した私の責任だ。
その時は私を恨んでくれて構わない。
アルフレード。
君とヴィオラが、これからのオリヴィアンを支えることになる。
国が笑いの絶えない、頑張ったことが実を結ぶような場所であり続けるよう、どうか力を尽くしてほしい。
グリモワールの兵を南部に引きつけている今、ジュリアン王がこの機を逃すとは思えない。
彼は冷静で、狡猾だ。
雪を踏み越えてでも攻めてくるだろう。
ギリギリまで抗うつもりだが、もし民が無駄に死ぬような状況になれば――
その時は、家臣たちには、私とリリスの遺体をもって降伏せよと命じてある。
君とヴィオラが必ずこの国を取り戻す。
その日まで、ヴァルトシュタインには逆らうな。
生き延びることが、勝利への最初の一歩だ。
そう告げてある。
みんな二人が手を取りオリヴィアンを奪還してくれることを信じている。
王都には副団長リチャードを残している。
君とヴィオラにはヘルマンを残す。
きっと君の助けになってくれる。上手に使え。
……さて、政治の話はこれくらいにしよう。
アルフレード。私は、君を本当の息子のように思っている。
最初は警戒していた。グリモワールの第一王子として迎えた少年を、どう扱えばいいのか分からなかった。
だが、君は努力を怠らず、驕ることもなかった。
誰よりも人を見て、気遣い、ヴィオラを大切にしてくれた。
君がいたから、私は安心してこの国を託せる。
そして、ヴィオラを一人にせずにすむ。
オリヴィアンが落ち着いたら――
どうか、私たちには叶わなかった日々を過ごしてくれ。
君とヴィオラと、生まれてくる子供が笑い合う未来を、私は信じている。
ありがとう、わたしのかわいい息子アルフレード。
君と出会えてよかった。
セバスティアン=オリヴィアン
リリス=オリヴィアン
俺は、叫びたかった。
うわあああああああああああああああっ!!っと。
喉の奥から嗚咽が漏れる。
セバスティアン王、間に合わなくて申し訳ありません。
あなたの娘と――あなたの血を継ぐ息子を、俺はちゃんと抱きしめることができました。
俺は、幸せでした。
本当の父は、俺を殺そうとした。
本当の母は、最後まで俺を選ばなかった。
でも、あなたたちが息子にしてくれました。
あなたたちの娘、ヴィオラが俺には希望です。
だから俺は、生きていられる。
必ず――オリヴィアンを取り戻します。
俺の国だ。
俺が、帰る国だ。
涙で滲む手紙を胸に抱き、俺は固く誓った。
この命に代えてでも、オリヴィアンを奪還する。
約束を果たすと。




