93 王子と遺された宝飾品
俺、アルフレードは、セバスティアン王からの手紙を手にしていた。
落ち着いて読みたい。
だが、ここの家をもう少し調べてからだ。
アンジェリカの家の中をぐるりと見て回る。
兵に頼んで、エドガーには母子共に無事であることを伝えてもらったが...
(アンジェリカがいない今、本当にここにいていいのか)
メイドはヘルマンの手配だから問題なし。
護衛もオリヴィアンの海軍兵だし、安心。
部屋は……どうやら、酒飲みだったらしい。
ワインやウイスキーがやたらとある。
それ以外は、長居する気はなかったのだろうか?
豪華絢爛とは言い難い。
ドレスも個性的。
社交界向きというより、フィレンタの貴族が普段着るような感じのものが数枚。
あとは民衆の服に近い。
宝飾品は、ベルトと指輪がぽつんと置かれていた。
金銀とサファイアが散りばめられ、金糸入りのベルベットベルト。
「父が母に結婚のときに送ったものか……」
手に取る。さすがエドガーがグリモワールの威信をかけて作らせただけある。
王族が、結婚に贈る時に重視するのは富の象徴だ。
政治的な意味が強い。
だが本来、民衆が結婚相手に男から女に贈る意味は「守る」「純潔の象徴」という意味だ。
「父は誰も守ろうとしなかったんだよな……」
結婚指輪も手に取ったけど、母がつけているのを見た記憶はない。
――それでもここまで持ってきて、大切に取っておいたのか?そんな一面もあるのか?
母が父を殺さず耐えていたら、誰も死ななかった……のか?いや、グリモワール南部はすでにボロボロだ。
国がもたなかっただろう。
父が母を愛していたら、よかったのか?
いや、妻がアンジェリカだぞ。ヘルマンすら閉口していた。
人の心は思い通りにはならない。
「俺にやるつもりで置いてたのか? 呪われてそうだな」
思わず吹き出す。
全てが後手に回ったけど、ヴィオラに何も買ってやれていない。指輪もベルトも贈りたいし、ネックレスやティアラ、ドレスも必要だ。
グリモワールがあの状態じゃ、何もできないけど。
俺はため息をつく。
宝飾より、国民の生活の安定が先だ。
とはいえ、子のセバスティアンにも、洗礼式を控えているなら贈り物は必要だ……。
オリヴィアンとグリモワールの子供だもんな。
金がないのは父とアンジェリカのせいだ。
ここにある芸術品や宝飾品を売るしかないか……。
「もしかして、売って足しにしろって置いてたのか?」
いや、考えすぎだろうな。
いや、やっぱり考えすぎだ。
(ヴィオラとヘルマンのせいで、アンジェリカがいい人になってしまいそうだ。)
ブンブン頭を振る。
王剣まで持っていってしまったのだから、一歩間違えれば売られるところだった。豪胆すぎる……。
「俺もヴィオラも、そこまで思い切った王にはなれそうにないな。ここまで亀裂が入った夫婦のものを売ってもいいか迷うぐらいなんだからな」
兄ジュリアン……アンジェリカを上回る野心と冷酷さを持つ男、どんな人物なんだろう。
結局、家の造りや隠し部屋などを確認したが、特別な問題はなさそう。
相部屋だけど、屋内に海軍兵の部屋もある。
メイドも高齢で多くは働けないけど、ヴィオラの身の回りは世話してくれる。
「とりあえず、国宝級の宝飾品もあるし、アンジェリカの部屋をそのまま俺が使うか?」
俺は椅子に腰かけ、やっとセバスティアン王の手紙を開く――。
その手紙は、ついこの間まで見ていた筆跡で、亡くなる寸前に書いたものとは思えなかった。




