表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/191

92 悪魔を知る男たち

ヘルマンが部屋に戻ると、ちょうどアルフレードがヴィオラの部屋から出てきたところだった。

廊下で視線が合う。


「ヘルマン、いろいろとすまなかった。そしてここまでヴィオラを連れてきてくれてありがとう」

アルフレードが、頭を下げる。


「いや、こっちこそだ。アン夫人――いや、アンジェリカ元王妃だとは知らず、とんでもないことになるところだった。……ヴィオラと赤ちゃんは寝たのか?」


「ああ。本来なら母子は離して休ませるんだろうが、アンジェリカが“母子同室にしろ”と命じたらしい。護衛の件もあるが……俺の目のこともあって、周りが信用できないみたいで、過敏になっているんだろう」


ヘルマンは黙って頷いた。

そして少し顔を曇らせる。


「残念ながら、港にはいなかった。おそらく陸路だ。ヴァルトシュタインに協力的な都市に向かったんだろう。……女の独り身だ、無事に船で渡れたらいいがな」


「そうか」

アルフレードは小さく呟く。


敵国の元一の姫であるはずのアンジェリカの無事を、祈るように願っている――。

そのことに本人だけが気づいていない。

ヘルマンは、もしかして...


「なあ、ヘルマン。母は……アンジェリカはどんな女だった?」


「アン夫人は……悪魔だ」


「は?」


あまりの即答に、アルフレードは目を瞬かせた。


もしかしてヘルマンは母のことを...と思った俺はバカだったのか?ヴィオラの話を聞き、ヘルマンの様子から一瞬疑ったが、ヘルマンに恋慕の気配などないな。


それどころか、どうやらトラウマに近いようだ。


「俺はな、踏まれ、蹴られ、叩かれ、怒鳴られ、こき使われ、鼻で笑われ、他の女から誤解され……果てには、自分の女たちにも振られ、怒鳴られた。どれだけ酷い目に遭ったか、わかるか?」


ヘルマンは身振り手振りを交え、いかに悲惨だったかを熱弁する。

まるで戦場で負った傷を語るように。


――だが、やっぱり??


これだけ饒舌に一人の女を語るヘルマンなんて、初めて見た。

しかも、それが自分の母親だというのだから、アルフレードの胸中は複雑だった。


「母のことだから想像はつくが……ヴィオラは、お前がアンジェリカに気があると思い込んでたぞ」


「やめろ! それだけはやめてくれ!」

ヘルマンが顔を真っ青にして首を振る。

本気で嫌らしい。


「……まあ、半端なく賢いのは認める。人を惹きつけるってより、“惹かせるまで命令し続ける”って感じだな。絶対王のような支配者気質ってやつだ。

悪いが、アルフレード。お前の母があの女だと思うと、気の毒でならない」


心底震えながら言うその姿に、嘘はない。

アルフレードは苦笑を浮かべながらも、静かに過去を語り出した。


父が流行病を仕組み、それを知った母が衝動的に殺してしまったこと。

助けを求めた母を利用して、ジュリアン王が南部とオリヴィアンを攻撃したこと。

焦土と化したグリモワール南部と、貧困にあえいだ人々のこと。


「俺の存在が……多くの屍を生んだのか。そんなこと、望んでなかったのに」


アルフレードは静かに息を吐く。

だがヘルマンは首を横に振った。


「お前のせいじゃない。あの女は、誰かのために動くような人間じゃない。

全部、自分のプライドのためだ」


吐き捨てるような声。

だが、そこに憎悪よりも疲労がにじんでいた。


アルフレードは黙って天井を見上げる。


――それでも、彼女は完全な悪ではなかった。

そう思いたい気持ちが、二人にはまだどこかにあったのだ。


沈黙を破ったのは、ふとした話題だった。


「あ、そうだ。子供の名前は、セバスティアン王からもらうことにしたんだ。オリヴィアンの民も喜んでくれると思う」


「……そうか」

少しだけ、ヘルマンの目が優しくなった。


「早く洗礼を受けさせて、正式に名を授けてやりたい。グリモワールで洗礼をして、帰国したら国民にお披露目しようと思う」


「これを渡さないとな」

ヘルマンは懐から一通の封筒を取り出した。


「セバスティアン王からの最後の手紙だ。お前宛てに託された」


アルフレードの指先が震える。

ヘルマンはその様子を見つめながら、静かに息を吐いた。


――王。

貴方の最後の命令、確かに果たしました。


ヴィオラを連れ、無事に出産させ、アルフレードに会わせ、そしてこの手紙を渡す。

任務は完了した。

だが、二度とセバスティアン王からの指令が届くことはない。


その現実に、ヘルマンの胸は締めつけられるように痛んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ