87 ヘルマン、涙の先に
フィレンタからグリモワール王城までは馬で2日かかる。
つまり、ヘルマンがここに来るまでにすでに2日経ってしまっているのだ。
「わざわざ俺がいないのだから警備を固めろと海軍兵みんなで家の周りを護衛をさせていたが...何でそんな不利なことを」
ヘルマンは呟く。
「一網打尽にオリヴィアン兵を始末できるチャンスと考えてたんだろう」
俺は、ジュリアンといいアンジェリカといい二人の知恵の回ることに腹立たしさを覚える。
俺は、馬の準備を頼んだ。
寝ずに、休まずに馬を乗り継げば1日で戻れる。
「二人とも落ち着け!他の多くの兵を連れては1日では入れない。向こうで待ち構えられていたらどうする?助けられるチャンスも潰すことになりかねないだろう。
南部騎士団で動けるやつで編成させるから待て」
「俺だけでも先に戻る!」
ヘルマンは嗚咽を押し殺しながら叫んだ。顔は涙と汗でぐちゃぐちゃだ。
「やめてくれ。動くなら一緒に動いてくれ。同じことを、オリヴィアンの侵略の際にしてしまって、ゼノス先生の行方がわからないんだ」
俺は冷静になりたかった。
だけど...冷静になんてなれない。
苦しすぎる。
ヴィオラがいないなら、その場で殺されてもいい。
「兵を連れていけ。数人軽騎兵を先に送る。まず無事か確認させるから、国境できちんと軽騎兵からの情報を受け取ってから都市国家に入れ。情報を持ってこれなければ、軽騎兵が始末されたと考えて突っ込むな。」
悔しくてたまらない。
俺が一番に駆けつけたいのに...
なんで?
なんでヘルマン離れたんだよ。
ふらふらと出発の準備をしようとしたその時
「エドガー王、ヘルマン様に追加の書面を渡すようにと新たな兵が来ておりますが。どうさせていただいたら良いでしょうか?」
エドガー、ヘルマン、俺は3人で顔を見合わせる。
ーーー
ヘルマンは途方に暮れていた。
ここまでせっかく守ってきたのに...
怪しいとわかっていたし、グリモワール王家の短剣や今思えば気づけるチャンスはあったのに。
歯ぎしりしたくなる。
しかし、追加って...最悪な未来と不安しかない
アルフレードと確認に向かうと、家を護衛していた海軍兵だった。
「お前、持ち場はどうしたんだ?」
ヘルマンはさーっと血の気が引く。
人のことは言えないが、姫からまた一人、護衛がいなくなる。
「アン夫人から、提督に必要な追加の手紙を持っていってくれと託されました。」
ヘルマンはそれを奪い、アルフレードと一緒にその手紙を見る
◇◇◇
ヘルマン提督へ
今頃グリモワールの王城でアルフレードに責められている頃かしら?
可哀想だから、追加の書面を送ります。
エドガー王への要望通り、グリモワール中部の安全なところに赤ちゃんの移動が可能になる時期に、姫と赤ちゃんを送るようにお願いしてください。
あなたはつめが甘すぎるの。いつも、私と姫だけにしてしまうし、今回も、あっさり私を信用したりして私が焦るじゃないの。少しアルフレードに叱られた方がいいわ。
でも、姫と赤ちゃんに危害を加えるなら、腐るほどチャンスはあったでしょう。そんなことはないから安心なさい。
それよりも急いで兵士を連れてくるなら、病人と触れていない健康体かどうかをきちんとアルフレードとチェックしてよこしてちょうだい。
そして、姫と赤ちゃんの無事を確認したらしっかり体を洗って、消毒をするまで触れないようにアルフレードにも説明するのよ!剣なんかより病気の方がよっぽど怖いのだから。
私は、ヴァルトシュタインに渡るわ。
高齢のメイドにしっかり賃金を渡しておいて。定期的にメイドにヴァルトシュタインの情報を流してあげる。もし連絡が途絶えた時は私はいなくなった時だからヴァルトシュタインの中で動きがあった時だとおもってね。
今度こそきちんと仕事するのよ。
では、女遊びもほどほどにね。あなたは兵を率いる立場なんでしょう?女に足元をすくわれているようでは、示しがつかないわよ。
アンジェリカ=ヴァルトシュタインより
ヘルマンはへなへなと崩れ去る。
もう一通はアルフレード宛のようだ。
「俺宛?」
《アルフレードへ》
その文字は、かつて見慣れた母のものだった




