85 守るべき命
本来であれば乳母をつけたいけど...
ギリギリまでヴィラと赤ちゃんをフィレンタにいさせたら、もう避難させないといけないわね。
最低でも首が座ってからの方がいいわ。
いえ、本当なら歩き出すぐらいまでは家から出したくない。
アンジェリカは、ヴィラとアルフレードの子供をメイドと交代で見ながら、ヴィラには母体の回復に専念させるようにした。
眠らなければお乳も出ない。
体力が落ちれば、ヴィラの命だって危ない。
そして、ヴィラが精神的に不安定になったらお乳も止まってしまう。お乳の中には免疫が含まれている。
お乳を飲ませたら、2.3ヶ月は病気が防げるはずだ。
アルフレードの流行病は、5才なのだから母乳とは無関係だ。
それでも、自分の中でトラウマであることを実感する。
(アルフレードにそっくりね。)
ふわふわの金髪の産毛も白い肌も、まだぼんやりしか見えていない目も。
ぐずるので抱っこをすると、人の温かさを感じるのかうとうとし始める。
かつて、アルフレードに歌った子守唄を歌いながら眠らせる。
思わず、涙がこぼれそうになる。
あの時に帰りたい。でも帰れない。
赤ちゃんは、甘い香りがした。
私なんかより、リリスがここにいたかったわよね。
私の代わりにこの子を抱っこしたかったわよね。
私はなんて酷いことをした姉なんだろう。
あの子のお母さんのことは、あの子には何の非もないのに。
ヴァルトシュタインの、ジュリアンの連絡が止まっている。
以前は、愚痴なのか、文句なのか?
ヴァルターの教育がどうにもならないと怒りの文面をご丁寧に送ってきていたのに...
どうやら、ヴァルトシュタインの国の中がごたついているのだ。
それは私の責任でもある。
ジュリアンが王に就任して間も無く、グリモワールを攻めたが失敗。いや失敗ではないのだが、グリモワールに残したヴァルトシュタイン兵は捨て兵にされたわけだから国民は憤るだろう。
私がフェリックスを殺したことがバレるわけにはいかないので仕方ないし、ジュリアンだって攻めたかったわけではない。
そして、婚姻同盟を結んでいたオリヴィアンを、周囲の貴族の根回しなく侵略。
これは、私の計画ではない。オリヴィアンを攻めてくれなんて頼んでいない。
だが、グリモワールが手一杯な間に、オリヴィアンを侵略したかったのだろう。結果的に雪が積もる冬になってしまったため、大勢の兵が亡くなってしまったのだ。
さらに、オリヴィアンからニノ姫を、実の妹が兄によって殺され遺体が運ばれているのだ。
批判に晒されるのは想像に難くない。
結果的に、ジュリアンを独裁者にさせてしまった。
ヴァルトシュタインでの彼の信頼や支援者が減ってしまったのだ。
連絡はしてこないが...一つ嫌な予感があった。
ジュリアンは、子供がいない。
妻もいるが、母や後妻のこともあって女性を信用しきれない。あまり交流もないようだ。
そんな時にもしジュリアンに何かあったら、ヴァルトシュタインの次の王位継承者は?
わたしか、アルフレードかヴァルターか目の前のヴィオラとこの赤ちゃんになる。
私とアルフレードは対象にならないだろう。グリモワールの元王妃と、次期王位継承者だ。
ヴィオラは生存不明、赤ちゃんの存在は知られていない。
だが、ヴァルトシュタインにはヴァルターが現れた。
わたし、一の姫の次男だ。
とりあえず、先に赤ちゃんを無事な環境に置いてやらないとね。
私はもう覚悟を決めていた。たとえこの身を捨てても、アルフレードの子だけは守り抜くと。




