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【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


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8 王の憂慮――アルフレードを巡る陰謀

セバスティアン王は、長い宴を終えてようやく息をついた。

――正直、胃の奥が重い。


「やはり、グリモワールはきな臭いな……」


そう呟かずにはいられない。


宴の間、グリモワールの前王エドガーが信頼を置く宰相と、現王フェリックスの特命大使とそれぞれに自分は密談をしていた。


だが――二人とも、肝心のヴィオラの結婚相手のアルフレードのことなど気にも留めていない。


……人質としての価値が低い、か。


セバスティアンは、ため息をつく。

一人娘のヴィオラには、幸せになってもらいたいのだが。


(我が国オリヴィアンなど軽んじているということだな)


セバスティアンの眉間に皺が寄る。


だが一方で、前王エドガーはわざわざ国の宰相を寄越してきた。

それはつまりアルフレードに特別な思いはないが、この婚姻同盟に本気だという証拠でもある。


ーーー


どうやら、グリモワール国内は二派に割れているらしい。


北部を拠点に動いているのが前王エドガー。

南部を掌握しているのが現王フェリックス。


(なるほど……)


地図を頭の中に広げる。

エドガーが守るグリモワールの北部はオリヴィアンと国境を接している。

ならば、エドガーがこちらに秋波を送ってくるのも理解できる。


一方で、南部を治めるフェリックス王の後ろ盾は――リリスの実家、ヴァルトシュタイン。

現王がリリスの父グスタフである以上、フェリックス王の妻はヴァルトシュタインの一の姫、アンジェリカなので、表向きは安泰に見える。


だが問題はその「次」だ。

リリスの腹違いの兄ジュリアンが王位を継げば?


フェリックス王の妻アンジェリカと兄ジュリアンは実の兄妹。関係は極めて親密。だからグリモワールとヴァルトシュタインの関係は安泰。

だが、この二人は私の妻リリスを、妾から後妻になった母から産まれた子だと嫌っている。


ジュリアンが王になれば、ヴァルトシュタインとわが国の関係は...言わずと知れたことだ。


(どちらに転んでも我が国は危ういうわけか)



セバスティアン王が休息のグラスを口に運ぼうとした、その時だった。

扉が静かに開き、妻のリリスが戻ってきた。

彼女の顔色は冴えない。


――やはり、今日のトラブルのせいか。


「……お疲れだったな。相変わらずヴィオラは勝ち気だなあ。はははっ!どうした? アルフレードに何かあったのか?」


重い空気を軽くしようと尋ねると、リリスは言葉を探すように少し間を置き、眉間に皺を寄せた。


「ええ……あの彼の服を整えてあげたんですけどね。大量に背中に内出血や傷があったんです」


「なっ……!」


セバスティアンは思わず身を乗り出した。


「第一王子だぞ? 誰が危害を加えるというんだ」


宴の最後、アルフレードとヴィオラは仲睦まじく、皆に挨拶をしていた。

すごいのは、そんな様子は微塵も見せなかったことだ。

その姿しか見ていないだけに、王の驚きは大きい。


「小柄だが、あの子は育ちの悪い印象など一切なかった。受け答えもきちんとしていた。……むしろ聡明で、教養ある子供に見えたのだが」


それだけではない。今日早速いろんなところであった嫌がらせを、泣くわけでもなく華麗に受け流す。

あんな子供がーーむしろ周囲の大人の反応の方が恥ずかしい


リリスも頷いた。

だが、その後視線を伏せ、小さく吐息を漏らす。


「……姉かもしれません」


「まさか……実の母だろう?」


セバスティアンの声に動揺が混じる。


リリスは淡々と続けた。


「姉は完璧主義です。アルフレードさんの目は病によるものだそうですが……今日眼帯を外した目は確かにひどいものでした。姉が、それを“養育の失敗”と周囲に囁かれたり、陰で今日のように化け物といわれたら耐えられないでしょう」


セバスティアンは、手の中のグラスをきしませた。


片目が悪いが、社交性があり、忍耐力もある嫡男か......


(……なるほど。むしろ次期王にふさわしいからこそ、国外へ追いやりたいのか)


グリモワールが次期王に次男を推そうとしている――そして、片目の見えない嫡男を婿に出す。

その意図が繋がる。


「結局、第二子に家督を譲るために、片目の見えないアルフレードは邪魔ということか。……なんと短絡的な」


思わず吐き捨てる。

王に必要なのは武勲だけではない。

冷静な判断、軍備の整備、立ち回り、そして――家臣の信頼を得て『この人のために命を捧げたい』と思わせる力。


片目が見えなくても、それだけの力があればよいのだ。


そして国を守ろうとする姿勢ーー


それこそが王に求められる資質なのに。


セバスティアンの胸には、得体の知れない怒りが広がっていた。






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