79 国境に届く声
まさか母アンジェリカのもとでヴィオラが過ごしているなんて――俺は夢にも思っていなかった。
俺は、グリモワール北部騎士団の副団長リュカとともに、オリヴィアン国境近くの防衛線まで来ていた。
雪解けが始まったようだ。踏み固めた道のあちこちに水溜りのように、溶けだまりがみえる。
夜は冷え込むが、雪が降ることは無くなっていた。
バリケードの先に出て行こうとすると、リュカから
「アルフレード様、ここからは危険です。物見台をご利用ください」
と言われてしまう。
俺は視線を横に向け、ふぅーっとため息をつく。
こんな目と鼻の先にいるのに、俺は入れないのか。
もう少しギリギリまで近づきたい。
リュカが説明する先には、粗末ながらもバリケードや物見台が築かれている。
登ってみると、山はないが木々がまばらに生えていて、視界を遮りちょうど死角を作っていた。
「グリモワールとオリヴィアンの国境線、そしてオリヴィアンとヴァルトシュタインの国境線はかなり離れています。そのため、ヴァルトシュタインの進軍は当初なかなか掴めなかったのです」
俺は頷く。グリモワールだって、この人数で防衛しなければならなかったわけだから、リュカの不安は当然のことだっただろう。
「グリモワール北部をよく防衛してくれた。相手がまさかこんなに早くオリヴィアンを攻めるとは思っていなかったんだ。オリヴィアンの現状を知りたい。あと、ヴァルトシュタインの兵の動きも」
そう告げると、リュカは頷き、近くの兵に合図を送る。しばらくして別の兵が連れてこられ、俺の前に立ち敬礼した。
「国境を守っている兵から聞き取った情報です。オリヴィアンの兵は、ヴァルトシュタイン兵が混じることもあるようですが、まだ国境に残っております。ただし、偽情報を掴まされている可能性も否定できません。」
俺は頷いた。
まだ雪解け前でオリヴィアンの城門も閉じられている。
自分たちがオリヴィアンの状況を調査するのは、この辺が限界だろう。
「偽かどうかは、後々判断する。今わかることを教えてくれ」
俺は頷いて、話を続けるように促す。
「彼らの話によれば――オリヴィアンの王と王妃のご遺体は検分のため、ヴァルトシュタインへ移送されたそうです。
ですが、奥方様のヴィオラ姫は、東の港町へ女性や子供を移送した後、行方が分からなくなったとのこと。その影響で指揮系統に混乱が出ているようです。また、海軍のヘルマン提督も同じく行方不明とのことでした。
現状、王都は無事だと。……そして、アルフレード様が戻られたら、必ず伝えてくれと託されたことがあると申しています。」
「なんだ?」
俺は、少し目を見開き聞いた。
「リチャード副団長からの伝言です。
オリヴィアンはしばらく不遇の時を過ごす。だが、みんな諦めていない。必ず姫とアルフレード様が戻り復権される日までみんなで耐える。と」
俺は焦りと駆けつけたい気持ちをグッと堪える。
「...そうか。もし可能であれば伝えてくれ。必ずヴィオラを、新王を連れて戻る、諦めてないと」
兵は頷く。
リュカは心配そうに聞いた
「大丈夫でしょうか?ヴァルトシュタインの息がかかっていないとは言えませんが...」
「構わん」
俺はきっぱりと返した。
「相手に伝わるならそれでいい。今は攻められないが――必ずオリヴィアンを取り戻す。これは宣戦布告だ」
力強く言い切った声が、どうか遠く国境の向こうへと響いてくれと祈るように俺は話した。




