77 守るべきは姫か、誤解か
ヘルマンは予想外の出来事に頭を抱えていた。
今まで都市国家群に行く時は、交易護衛か交易そのもののためだった。一つの都市に長居しないし、友好国も限られている。
多少の隠密活動はするが、間違えても避難先や亡命先を探しているわけではない。
だからこんなことになったんだ
「ヘルマン、どうしてブリジットのところにいるの?私とはもう別れたの?」
「ヘルマン、やっぱり他の人と付き合ってたのね。」
「ヘルマン、君しかいないっていってたのに、娘って何?」
「ヘルマン、あの娘のおなかの子もあなたの子じゃないでしょうね」
一人を説得している間に噂が流れてまた一人がやってきて、また愛を囁き直している間に、次の怒りの塊がやってきて...
姫の出産までまだまだあるのにブリジットのところに居続けることができるだろうか。
出産なんて経験がないから、最後産む時に産婆を連れてくるだけでいいと思ってた。
もちろん、産みさえすればどこかの宿を取ってゆっくりさせてやればいいと思っていたのだ。
だが、それは一般人の出産だ。
貴族だったら家に出産室をつくるぐらい衛生面や体制に気を使うのは当たり前だ。
フィレンタを出ていくべきか?
ヴァルトシュタインの手が入らない国を探さないと...
その時、ドアをノックする音がする
「お話し中すいません。父がご迷惑をおかけしております。」
ヴィオラが申し訳なさそうに頭を下げる。
ブリジットの厳しかった目が少し和らぐ。
「いいのよ。あなたのせいじゃなくて、わたしがヘルマンに遊ばれただけだったの」
「い、いや。ブリジット。そんなことない。」
ヘルマンが慌てて、ブリジットに声をかける。
「やっぱり、ブリジットなの?ならどうして昨日うちに来たのよ」
「昨日?昨日あなたちょっと出てくるって言って、娘を押し付けて彼女のところに行ったの??」
「い、いや...あの」
ヴィオラが、すーっと遠ざかっていく。
「あ、ヴィオ..ヴィラ!ヴィラ!」
ーーー
これはダメだ。
命をかけて姫を守ると王に約束したのに、全く関係ない女に刺されかねない。
とりあえず、宿を探そう。
落ち着ける空間が姫には必要だ。
「お取り込み中ごめんなさいね、ブリジットさんいらっしゃるかしら?」
ドアをノックする音が聞こえて、アン夫人とその後ろにヴィラがいる。
「メイドに声をかけようと思ったのだけど、捕まらなかったから。」
チクッとブリジットの接客が出来ていないことを伝える。
アン夫人、息子が戦地に行って落ち込んでいるということだったが、落ち込んでも嫌味を忘れないあたり気が強いな。
その割に、姫のことを心配して顔を出してくれるとかマメな人らしい。いや、他人から見てあまりに準備できなさすぎて心配されたのか。
「あら、ごめんなさいね。取り込んでて」
「ヴィラさんの出産のことが心配で、つい口を挟んでしまったのだけどウチで面倒を見ようと思うの。お二人には、時間をかけて話をする必要があるでしょう。」
え?
人が良すぎる。
なんか違和感を感じるんだが...
「いや、ブリジットからのご紹介だけでそれはちょっと。お気持ちだけいただきます」
もう少しアン夫人のことを調べなければ...
「じゃあ、どうするの?明日出ていかなきゃいけないような環境に、親も夫もいない妊婦を不安にさせてあなたどうするの?」
「親?あの...父親なんですけど」
俺は一瞬、「はい」と返事しそうになった。
姫の父親の設定のはずだ。親って?
もしかして、姫が何か迂闊に話したか?
「ち、父親がいないようなもんだって言いたいのよ!娘じゃなくて、お付き合いなさっている方を第一になさっているようじゃないの?」
「......」
ぐうの音も出ない。
その時だった。
「ちょっと、噂に聞いたんだけど。あなたヘルマンに関心があるんですって?」
ブリジットが俺の前にすすみでる
「関心?申し訳ないけど、カケラにもないわ。娘さんのことは気にしているけど...」
アン夫人の眉間が一気に川の字ができるほど顰められる。
俺も慌てる。
アン夫人は引っ掛けてない。
これ以上の登場人物は必要ない!
「なら、どうしてヘルマンのことをメイドにきいたりするのかしら?」
「あら、うちの家にはスパイがいるようね。申し訳ないけど、こんな役立たずな男に関心はないわ。」
更に聞いていた他の女も参戦する。
もうカオスだ。
「怪しすぎるでしょ!娘を取り込んだらヘルマンもてにいれられる魂胆ね。」
「そんなわけないでしょう。失礼ね。こういう口だけ誰にでも良い顔する男に中身はないの。こんな役立たずな男に限って、出来もしないのに命をかけて守るよ!とかいうのよ。」
ドキッーー
王に誓った。命をかけて姫を守るって...
「あのね、ヘルマンさんが欲しければどうぞ。わたしはあの子のお腹の子の祖母なの。だから、こんな男と違って本当に命をかけて守るわよ。連れていくわよ!胎教に悪すぎるわ」
女が一斉に叫び出す。
「なによ!娘のお母さんは死んだって言ってたじゃない!」
「お腹の子の祖母ってことは、あなたとの子じゃない!」
「アン夫人とできてたのね」
「嘘つき!!」
俺にはもう何が何だかわからない。
どうしてこんなことになったのか?
なんでお腹の子の祖母だなんて...
アン夫人はなんでそんな嘘をつくのか?
頼む...教えてくれ。
王、申し訳ない。俺はもう無理だ!
俺は心の中で叫んだ。




