表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/191

75 母の覚悟――見えざる危機

アンジェリカは、ヴィラとヘルマンを見送ってから、へなへなと崩れ落ちた。


「……やってしまったわ。どうして出産の手伝いなんて申し出たのかしら?」


考えれば考えるほど、あり得ない行動だ。

今は人助けをしている場合じゃない。

兄ジュリアンからいつ指令が届くかわからない。

それどころか、自分の正体が露見してグリモワールに処刑されるかもしれない立場なのに。


「さっきまでは、死んでもいいって覚悟してたのに……」


なのに、見過ごせなかった。

赤の他人なのに。


けれど


「あの親子は不思議だったわよね」


一緒に暮らしていない親子って、あんなによそよそしいものだろうか。出産のこともあんなに親子で話を詰めてないってどうなのよ?


アンジェリカはふと考える。

アルフレードと自分の関係を思い出す。


(よそよそしい、なんて可愛いものじゃないわね。息子に鬼母扱いされて、大戦争になったんだから)


思わず苦笑する。

それに比べたら、あの親子の方がよほど普通だ。


「あの娘は嘘をつくのは下手そうね。夫が戦場に行っているという話も、本当だと思うのよね。」


ヴィラの視線や、驚き方、身の上を話している時の表情、出産の準備不足で不安な様子。あれは嘘じゃないわ。


ただ――ヘルマンには違和感がある。

「何かを隠しているのよね?なんなんだろう。娘に隠し事をしていてもおかしくないけれど。」


もう一度親子を思い出す。


娘はどこか甘い感じね。

貴族の子だっていうし、こんな状況では仕方ないかもね。

カーテシーも綺麗だけど、うーん、なんか中途半端。

考えもリリスを思わせるような未熟さ。


「素材は悪くないのに。徹底的に仕込みたくなるわ」


ただ、あの子の目――。

一瞬、息を呑んだ。

怯まされるほどの力があった。統治者の目だ。


(……まあ、貴族の娘には不要な資質だけど)


深く息をついて、アンジェリカはメイドを呼んだ。


「ねえ、さっきのヘルマンさんって、この辺りによく来るの?」


待ってましたとばかりに、メイドが嬉々として答える。

この子は噂好きなのだ。


「アン様もああいう方がタイプですか?ヘルマンさん、すごい人気者ですよ。どんな女性でも、自分が一番大事にされてる気がするんですって。でも気づいたら他の人にも愛を囁いてるって」


「……あらあら、修羅場じゃないの。まあ、見た目は悪くない感じだったけど」


肩をすくめる。

なるほど、違和感の正体はこれか。

恋人が一人じゃないのね。

娘に隠したいはずだ。


「それに、ヘルマンさんが可愛がってる男の子がまた評判なんです」


「へえ、どんな子?」


軽い気持ちで聞いた。

けれど――。


「アン夫人みたいにサラサラの金髪で、美形なんですけど……片目が見えないんですよ」


「……え?」


全身から血の気が引く。指先が氷のように冷たい。


「な、何歳くらいの子なの?」


「前に見たときは十八歳。今年で十九になったんじゃないかな」


十九歳。

金髪。

片目を黒い金属のプレートで隠した少年。


「……アルフレード……?」


頭が真っ白になる。

ヘルマンが連れてきた少年。

ヘルマンは、オリヴィアンから来たって言っただわよね。

もしアルフレードで一緒に来たのだとしたら――。

商人じゃないわ。


(ヘルマンは何者? 王族を連れ歩ける立場? だとしたら、海軍? でも、オリヴィアンは大変な時なのに、なぜ今フィレンタに?)


戦争中にあえて国の防衛任務を放り出して、船を出す。


普通じゃ絶対ありえないわよ。

しかも娘を連れて逃げるとかそんな個人的なことに船は出さない。


ではどんな時に女の子を連れて脱出する?


もしかして、オリヴィアンの姫!!

もし、あの娘がヴィオラ姫なら。

そしてお腹の子が――。


アルフレードの子。それならしっくりくる。


オリヴィアンにいて、オリヴィアンではあまりいなあ金髪で、年齢が同じで、かた目が見えないなんて条件、揃いすぎてるもの。アルフレードだろう。

その王配になるアルフレードを連れ回せる立場の人がヘルマン...


「……危険だわ」


汗が額から流れ落ちる。

震えが止まらない。


「どうかしました?」

メイドが首をかしげる。


「う、ううん。ちょっと立ちくらみみたい。……休むわ」


人払いをして、ひとりになる。


(ヴィオラがジュリアンに見つかれば、殺される……!)


もう、考えることはひとつしかなかった。


――アルフレードの子を守らなければ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ