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【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


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74 お互いの駆け引き

ヘルマンは、一言挨拶するために顔を出した。


「本日は、お時間をいただきありがとうございます。オリヴィアンで毛織物の商いをしておりましたヘルマンと申します。この度の戦火で、フィレンタに身重の娘と共に避難して参りました。無事に出産を迎えられるよう、どうかご助力を賜りたく参りました」


軽く頭を下げる。


ヴィオラが貴族のような挨拶をするとは思わなかった。


ここにいる女性は、おそらく貴族か、貴族に近い教養を持つ人物だ。迂闊に貴族ではない自分がそのふりをしたらボロが出る。


かといって、海軍であることは隠さねば...

海軍は交易のためにここにきていたから、商人にするか。

ブリジットも、海軍提督とは知らないからなんとかなる。


ヘルマンは、部屋に入るまでの家の様子を観察していた。


一見すると質素な作りで、最低限の調度品しかない。

しかし、置かれているのはフィレンタの有名な芸術家の絵や彫刻。さりげなく置かれているだけで、目利きの感覚があると分かる。グラスやワインも見える。上流階級でなければ使わないものだ。


(裕福だし、教養も高い、貴族かそれに近い人物と見て良さそうだな)


「頭をお上げになって」


微笑む女性は見知らぬ顔。

でも、どこか見覚えがある気もする。

ああ、でも、アルフレードが女だったらこんな感じかもしれない。


キリッとした目鼻立ち。

スッとした姿勢の良さ。

オリヴィアンでは珍しい金髪でかなりの美人だ。

未亡人で、金持ち。

この街では話題になるだろう。


「お身体は大丈夫? 医師からは安静にするように言われたそうだけど……助産婦ではなくお医者様を頼るなんて、よほど重い症状だったのかしら?」


ヴィオラはドキッとする。

この時代ーー出産は普通、助産婦に任せるものだ。

だが、自分と腹の子は、まさに、よほどの身分が高いため医師に見てもらったのだ。


「いえ、初めてのことですし、男親一人ですから、つい心配で医師を頼んだのです」

ヘルマンが代わりに答える。


アン夫人はヘルマンを上から下まで眺める。

その視線から、いつもの奥様方の情報収集が始まったことが分かる。


「娘は、若い時に出会った、許されぬ恋の女性との子で、その方は亡くなりました。戦争が差し迫ってましたので、その女性の家からこの子を託されたのです。わたしは独身です」


ヘルマンは困ったような顔を作る。

俺が商人で、娘が貴族だったら疑われるよな。

また設定が増えたな……許されぬ恋に落ちたことにしよう。


ヴィオラは、困惑した。


(どんどん嘘が増えていく。)


アンジェリカとヘルマンの駆け引きに気づかず、受け答えの設定を覚えることに集中する。


「まあ、そうでしたの。ヴィラさんのお腹のお父様は?」


アン夫人の追求は続く。


「この子のお父さんは戦地に出ていて、状況がわからないんです」


ヴィオラは俯く。

アルフレードは自分を守るため戦っている。

でも、どこにいるのか、無事なのかもわからない。


その表情を見て、アン夫人は悲痛そうな顔に変わる。


「そう。それはつらいわね。でも、あなたには出産という大仕事が待っている。頑張りましょうね。ところで、出産場所はブリジットさんの家なのかしら?」


「え……?」


ヴィオラは固まる。


「だって、自宅がここにないのなら、ブリジットさんの家に助産婦さんを呼ぶのよね?」


ヘルマンも固まる。

まだブリジットとそこまで話を詰めていない。

というか、一年近くフィレンタに定住しても良いか、今の段階で判断できない。


「あ、あの、オリヴィアンから逃げてきたばかりで、まだ何も……」


「それは大変よ。きちんと清潔な出産場所と、助産婦さんと、あと出産介助や出産直後の赤ちゃんの介助をしてくれる人は必要よ」


ヴィオラは現実を思い知らされる。

子供は勝手に生まれてくれるわけではない。

母もいない。

(わたし、産めるの……?)


思わずリリスを思い出し

「お母様....」

とつぶやいてしまう。


「甘ったれたこと言わないの。お母様は貴方なのよ。助けてもらうんじゃない、貴方がお母様になるの。わからないことがあれば、私が手助けするわ。あなたには夫も帰ってくるし、赤ちゃんもこの手に抱けるのよ」


アン夫人の言葉に、ヴィオラははっとする。

この方のご主人は亡くなり、息子たちは戦争に行っている。それでもこの方は強く生きている。

(わたし、何を甘えていたんだろう……)


唇を噛み締め、ヴィオラはまっすぐにアン夫人を見つめた。


「すいません。アン夫人のお気持ちも知らずに。出産場所や介助してくださる方をすぐ探します」


その真っ直ぐな視線に、アン夫人は少し怯んだ。


「い、いえ。ちょっと言いすぎたわ。その、出産介助は私がしてあげるわ。だから、場所はブリジットさんに頼んだ方がいいわね」


「出産まで日がないので急いで準備します」

ヘルマンも慌てて返答した。





《歴史背景》


中世では出産は医師ではなく助産師の仕事でした。

貴族の家には出産のための部屋を作るほど厳重に対策がされていました。宗教上、男子禁制で、母体の死亡率も15%ほど、乳児も半数は亡くなる時代なので、対策をして出産しなければならない状況でした。

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