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【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


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73 運命の街フィレンタで

フィレンタの街は、国じゃなくて一つの都市なのに、思った以上に賑やかだった。


「おしゃれな服を着た人が多いわ……でも、オリヴィアンだと目立ちすぎるかも」


赤や青など派手な色も普通に取り入れていて、庶民ですら生地やデザインにこだわっているのがわかる。

そういえば、普段ヘルマン提督も陸にいるときはおしゃれだった。こうしていろんな国の文化を取り入れていたのね。


今日会いに行く人はグリモワール出身だから、落ち着いたベージュにした。でも、このセンスを取り入れないと、よそ者だとすぐわかってしまう。


「毛織物や染色が盛んだし、芸術も発展している。オリヴィアンからは羊毛やリネンの取引が多いんだ」


海軍は護衛だけじゃなく、取引物を運ぶこともあったそうだ。


「勉強していたけど、実際に目にすると実感するわね……。今後はオリヴィアンの海軍じゃなくて、ヴァルトシュタインの海軍が出入りするのかしら?」


キョロキョロしてみると、やっぱり地元民とよそ者で服や雰囲気が違うのがわかる。

ヘルマン提督はすっかり地元民になっていた。正確には、フィレンタ風の服にオリヴィアンでよく使われる色を差し色にしたり、毛皮を取り入れている。


海軍は隠密活動もするものね。

私は姫だから、身バレするし、隠密訓練なんて受けたことがない。


しくじった……おなかの子には取り入れようかしら。

すっかり地元民に溶け込むヘルマン提督にヴィオラは少し悔しさを感じた。


でも...

アルフレードも目立つ顔立ちだから、隠密訓練は無理ね。

目のこともあるし...

それならいい。

アルフレードは好きだけど、やっぱりライバルでもある。

自分ができないことなのに、アルフレードができてしまうと悔しいのだ。


「さあ、どうだろうな。戦争で毛織物が高騰しなければいいがな」


ヘルマンは軽く指を立て、外で迂闊に話すなという合図を送る。

ヴィオラは頷き、普段どおりに装った。


「お父さん、今日会う人は何歳くらいなの?」


「ブリジットより上だから、40前くらいかな。家の調度品やお酒が高級品らしいから、相当お金持ちだろう」


ある程度の身分があって、グリモワールから来た人なら、安心のようだ。


「それ、メイドさん情報でしょ。そんなぺらぺら話していいのかしら?」


ヴィオラは胡散臭そうに尋ねる。


「よその家の秘密は蜜の味だからな。大きな家ほどメイドや料理人を雇う。噂話は広がるし、意図的に広める人もいる。ブリジットも、豪商時代に嫌な思いを何度もしている。だからあそこのメイドは情報を持ってきてくれて、なおかつ口が硬い人間を選りすぐってる。だから賃金も倍だ」



ヴィオラはブルっと震えた。もはやメイドがスパイじゃないの。ブリジットの家を選ぶとき、そんなことも考慮していたのね。


ヘルマンはここには、長期滞在するつもりじゃないのだろうか。私はあと何人、ヘルマンの恋人を見せられるのかしら。


「お、お父さんは、大切な人とか……いないの?」


ちらっとヘルマンを見る。


「みんな大切だが?」


「……」


聞かなきゃよかった。

アルフレードに隠密訓練は不要だわ


ヘルマンも、私の侍女も、王族の世話をする人たちは選りすぐりの人材なのね。

ふぅ、世間知らずだったわ。

外の世界を知るって大事ね。

これをオリヴィアンで役立てるんだって思えばいいのよね。


「ここだな」


ヘルマンが呼び鈴を鳴らす

ブリジットの家と同じくらいの、こぢんまりとした邸宅。

でもこのあたりでは十分大きく、手入れも行き届いている。街は派手だけど、ここの庭や家の外装は清潔感重視の落ち着いた造りだ。


噂のメイドに案内され、女性のいる部屋に通される。


40代前後と聞いていたが、目鼻立ちがはっきりした金髪美人で、若く見える。

だが視線は冷たく、警戒心がある。

戦争の影響かもしれない。


背筋はすっと伸び、動きや座り方は上品。

裕福なって言ってたけど、グリモワールでも貴族じゃないかな。

アルフレードのことも知っているかもしれない。

アルフレードに恥をかかせないようにしなきゃ。


「お初にお目にかかります。このたびはご多忙のところ、お時間を賜り、誠にありがとうございます。私はヴィラと申します。どうぞ、よろしくお願い申し上げます」


ヴィオラはオリヴィアンの姫らしく、丁寧にカーテシーして挨拶した。


お互い、まだ知らない。


アルフレードの母で、リリスの姉――アンジェリカと、

リリスの娘で、アルフレードの妻――ヴィオラ

因縁の二人がここで出会ったことを。


そして、ヴィオラのお腹にはアルフレードの子、つまりアンジェリカの孫がいることを。


運命の悪戯は、今まさに始まろうとしていた。



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