71 最後の手紙と誓い
ブリジットは、私に一人部屋をあてがってくれた。
「最初は本当に娘かしらと疑っちゃったわ」
と笑うブリジットにブンブン手と首を横に振る。
ヘルマン提督の恋人と勘違いされたらしい。
とんでもない!
その様子を見て満足したようだ。
「お腹の子の父親は?」
「うちも、戦争で...」
「ああ、それは心配よね。」
ブリジットの顔も曇った。
オリヴィアンが侵略された話はここでもすでに伝わっているのだろう。
とりあえず嘘は極力言わないように気をつける。
「この間話していた女性に話をつけておくから、安定したら行ってみたらいいわ。向こうも息子さんが戦争に行ってるから、お互い気が紛れるわよ」
だが、医師の診察を受けると切迫流産の危険性があり安静にということだった。
雪道を歩き、船に揺られ、父母が死んで、お腹の父親の安否は不明となれば、当然かもしれない。
途中で何度もお腹が張ったり、微量の出血が続いていた。
ヴィオラはやっとゆっくり横になることができるようになり、セバスティアンとリリスからの最後の手紙を開いた。
ーーー
愛するヴィオラへ
こんな形で別れを告げることになり、すまない。
何も言わず逝くのは、お前への裏切りだと分かっている。
それでも、国とお前、お腹の子を守るためには、これしかなかった。
もっと年頃の女の子のように笑わせてやりたかった。
それなのに、男の子のような厳しい訓練ばかりさせてしまって、なのに活躍の場を与えられず、いつも申し訳なく思っていた。
それでもお前は、持ち前の明るさでがんばってくれたね。
お前には、人を惹きつける力がある。
その気高さと優しさを、私たちは誇りに思っている。
弱き人を思いやり、国民のために動ける王に――私の願いをきちんと理解してくれた王に――育ってくれた。
そして、お前は人を見る目がある。
私が警戒していたアルフレードを、お前はすぐに素晴らしい人物だと見抜いた。
彼もまた、天性の王の資質を持っている。
お前のために尽くしてくれるだろう。
もう思い残すことはない。
二人なら必ずオリヴィアンを取り戻してくれる。国民も、お前たちを待っている。
いや、違った。ただ一つ、心残りがあった。
お腹の子を抱きしめられなかったことだ。
きっとこの子は、オリヴィアンの未来をつくる。
私たちも、リリスも、天から見守っている。
さようなら。愛しい娘よ。
セバスティアン
リリス
⸻
「……お父様、お母様……っ!」
胸が詰まって声にならない。涙があとからあとから溢れて、止まらなかった。
ごめんね。
私が男の子だったら、盾になれたのに。
私がこの子をお腹に宿していなければ――。
ううん。そんなこと、思っちゃいけない。
でも、本当にこれしか道はなかったの?
どうして自分たちで死を選んでしまったの?
私に、なにかできることはなかったの?
ずっと守られてばかりだった。
お父様とお母様に。
アルフレードに。
……もう私は、オリヴィアンの姫じゃない。
本当にオリヴィアンを取り返せると思うの……?
涙が頬を伝っても、拭いてくれる人はいない。
抱きしめてくれる人もいない。
家族みんなで過ごした食卓も、アルフレードを巡って言い争った日々も、遠い昔のようだ。
――それでも。
「必ず……この子だけは、無事に産まなきゃ」
ヴィオラは、静かに、けれど固く心に誓った。




