66 北部拠点への進軍
「まず目指すのは、グリモワール北部拠点だ」
アルフレードは中部騎士団副団長のガスパーに伝えた。
「そうですね。エドガー王からの判断を待ちながら、まずはグリモワール北部の拠点でオリヴィアンの情報とヴァルトシュタインの侵略状況の確認があると思います」
一人で考えるのには限界がある。
だから、今回、15000の兵を指揮する中部騎士団の副団長ガスパーに声をかけたのだ。
グリモワール王国は、侵略と同盟を重ねて大きくなった国だ。そのため騎士団も南・中・北の三つに分かれている。
今までは、ゼノス先生もいた。
南部奪還の時は、エドガーや宰相と話すことが多く、中部副団長のガスパーとはほとんど会話をしていなかった。
歳は20代後半ぐらいだろうか。
若いのにエドガーに任されたということは、相当腕が立つのだろう。
銀髪に、屈強な体と筋肉、威圧感を感じる佇まい。
笑みを浮かべることもなく、考えも読めない。
まあ、変にすり寄られるよりはいい。
「だが、先ほど兵たちと話して気づいたんだが――南部出身の雪を体験していない兵が混じっている。南部騎士団の兵は編成に多いのか?」
アルフレードは首を傾げる。
親しみやすい兵たちだが、無遠慮に自身に声をかけてきたり、この切羽詰まった雰囲気に似つかわしくないのだ。
「南部の騎士団はフェリックス様の管轄で、王都の治安維持の訓練はされておりましたが、実戦は....」
ガスパーの顔が、気を使うような、やや苦々しいものに変わる。
「フェリックスは父だが遠慮はいらない。君たちも知っての通り、あまり交流のない親子だからね。だからもう少し、騎士団の現状を教えてもらえるかな?」
アルフレードは微笑んだ。
中部と北部は祖父エドガーの指揮下。内戦中でもあり、戦争向きに鍛えられた兵だ。
一方、南部はフェリックスが騎士団に無関心で、気に入らない団長はすぐ解任。
訓練も王都の警備寄りだったため、戦場では頼りない。
南部奪還がほとんど抵抗なしだった理由もここにある。
「雪に慣れていない連中を前線に出すのは危険だな。」
アルフレードが呟くとガスパーも同意する。
「南部騎士団の兵を中部に残っている兵と交代させましょうか。もしくは、経験を積む機会として、補給やアルフレード様の護衛などの役割に回した方がいいかもしれません。」
「俺の護衛か...申し訳ないけど俺は雪国育ちだからな。逆に守ることになりそうだが」
ガスパーは苦笑する。フェリックスとヴァルターしか見ていなければ、そう思うだろう。
アルフレードは少し複雑な気持ちになった。
ーーー
編成を直すと、兵の動きはぐっと良くなった。
街中では雪がパラパラ降り、道は凍って滑りやすいが、隊列はスムーズに進む。
北部に入ると雪は徐々に深くなる。
山道に差し掛かると、道がわかりにくく滑落の危険もある。隊は慎重に確認しながら進む。
「さすがだな。よく訓練されている」
「恐れ入ります。私も驚きました。フェリックス様もヴァルター様も馬車が専門でしたので」
つまり、馬に乗って視察なんてもってのほかということか。
馬車が入れる場所なんて限られているだろうに。
「じゃあ、ヴァルターは今ごろジュリアン王に鍛えられてるな」
アルフレードが吹き出すと、仏頂面だったガスパーも思わず笑った。
雪と寒さの中、兵たちの足音が軽やかに響く。これから待ち受ける北部での戦局に、二人は少しだけ心を落ち着けた。




