65 足枷の王国と、失われた帰る場所
どんなに冷静になろうとしても、無理だった。
頭の中がぐちゃぐちゃで、呼吸さえ苦しい。
「……少し頭を冷やすか」
俺はため息をついた。
外に出て、冷たい風を浴びる。
けれど、心はまったく冷えやしない。
俺の生きる理由――ヴィオラがいない。
どこにいる?
会いたい。
お願いだから、一目会いたい。
王も、王妃も、シリス団長も死んでしまった。
ゼノス先生の消息すらわからない。
……こんなの、冷静になれるはずがないだろ。
目を閉じて風を吸い込む。必死で落ち着こうとしたとき。
「アルフレード様、どうされましたか?」
見回りの兵に声をかけられる。
「いや、頭を冷やしてただけだ」
一人で考えることもさせてもらえないのか...
少し苛立ったが、いつものつくり笑顔を作って返す。
「寒いのにご苦労。大丈夫か?」
「は、はい! 南部に比べると冷えますが、まだ耐えられます。でも、北は雪が積もるんですよね。俺、雪の大変さはみんなから聞くだけで初めてなんです」
兵は赤い頬をこわばらせながら、白い息を吐いた。
ヴァルトシュタインとグリモワールは山を挟んで東西に別れて、お互い王都は南部にある。だから兵たちは、ほぼ同じような気候で過ごしている。
そんな南部の暖かい気候に慣れた兵が、突然大量に北に進軍。
ジュリアン王は即位したばかりで、グリモワール南部を攻めた上に、更に慣れない北に進軍したわけだろう??
「戦略としてはすごいけど、こんなに急いで国内で反発は起きないのか?」
ジュリアン王は、兵を人とも思ってないのか?
母上もそうだった。俺を人として見なかった。
やっぱり、血は争えないんだろうか。
もしヴィオラが捕まっていたら――終わりだ。
苦しめられて、殺される。
そんな未来ばかり浮かんで、吐き気がする。
今なら、まだ間に合うはずだ。
今なら、オリヴィアンを取り戻せる……!
いや、シリル騎士団長が亡くなったと言うことは、亡くなった防衛線を守っていたのは騎士団か。
オリヴィアンの方の人員も足りない。
しかも、婿養子でグリモワールの王位継承を公表した俺に
……誰がついてきてくれる?
むしろ、グリモワールからの、新たな侵略と捉えられかねない。
考えれば考えるほど、胸が詰まる。
祖父にも、この兵たちにも、申し訳ない。
それでも俺には、グリモワールが足枷でしかなかった。
自分の力のなさが、心底悔しい。
そして気づいた。
ゼノス先生がいなくなって、やっとわかった。
俺にはもう、誰もいない。
王も、王妃も、シリル団長も...
そして、愛するヴィオラも...どこにいるのか。
会いたい。
ただそばにいて欲しいだけなのに...
十二歳で国を離れた俺に、ここで頼れる家臣なんていない。
相談できるのは遠くにいる祖父ぐらいだ。
(……参謀が欲しい。)
だが、頭に浮かぶのは、オリヴィアンの人間ばかり。
「やっぱり俺は、オリヴィアンの人間なんだな」
乾いた笑いが漏れた。
そうだ。まずは少しでも近づこう。
――行く。北へ。ヴィオラのもとへ。
俺はグリモワール北部の拠点を目指すと決めた。




