63 奪われた国、残された命
どれだけ泣いただろうか?
どれだけ叫んだだろうか?
私が泣き叫ぶと、船の速度は落ちた。
私をオリヴィアンから離すために必死でスピードをあげていたみたいだ。
「ごめんなさい。取り乱した」
呆然とする。
ごめんって言うのに気持ちが入ってない。
しっかりしないと。
私は王になるのに...王に?
もう、王にはなれない。あれ?私、私は??
「姫!どれだけでも泣いていい!その代わり失望するな!」
ヘルマン提督が叫ぶ。
「失望するな..っていっても...」
必死で動く海軍兵たちは私の顔を見ないように動いていた。
でも、みんな涙を流して動いている。
ああ、そっか。
みんな分かった上でわたしを逃したんだ。
知らなかったのは私だけ。
うう.....っ。嗚呼...
泣いてもどうにもならないのに。
アルフレード、お願いだからそばにいて。そばにいてよ。
苦しすぎて、心が壊れそう。
私何のために生きてるの?
お父様もお母様もいない。
アルフレードとだって二度と会えないかも...
いや、国が陥落した今、国がなくなり、姫ですらない私にアルフレードが命をかけてまで会う必要ある?
私...どうしたら?もう何も考えられない。
もう、もう何も...
「......」
「姫、いや、これからオリヴィアンと友好的な国に入る。
ヴァルトシュタインと交流はない国を選ぶから安心してくれ。その...」
ヘルマン提督はどう声をかけようか迷っているようだ。
周りにこんなに気を使わせて申し訳ない。
王になるのに、みんなを引っ張って...いや、もうならないんだ。
みんな私に巻き込まれて...これからどうするんだろう?
どうしてわたしは...どうして一緒に死ななかった?
どうして?
「姫とアルフレードとお腹の子供が希望なんだ」
ヘルマン提督が、呟く
「え?」
「子供のことは俺しか知らされてない。姫は王と同じぐらい狙われる立場だ。オリヴィアンが敵の手に落ちても、心は落ちてない。必ず、アルフレードとヴィオラとその腹の子供が平和なオリヴィアンを取り戻してくれると思ってる。セバスティアン王は先が読める素晴らしい君主なんだ。」
「取り戻せるの?だって、アルフレードはいない。私には何の力もない」
父も母もいない。
姫だったのは過去。もう国もない。
しかも、知らなかったとはいえ国民を放置して、その国を逃げ出してしまった。
お腹に子供がいて、その子も私も狙われる。
足手纏いにしかならない。
「そんなことあるか。力がないと思う奴を、命懸けでみんな連れて行かない。海の男だぞ。納得しないと動かない」
ヘルマンは、最初と違い視線を逸さなかった。
「都市国家群に入ったら、お前は俺の娘だ。名前は...ヴィラにしようか。間違えて呼んでも、誤魔化しやすい。ただ、オリヴィアンと交易があった国だから、姫の顔を知っているものもいるだろう。出来るだけ外に出るな。外に出る時は、顔を隠せ。」
「う、動かなかったら、ヴァルトシュタインを討伐できないじゃないの!」
わたしは、外の国を見たことはない。
カッターで岸の近くを漕ぐーーそれがわたしの最大距離の海外だ。
外に出ないで生活できるの?
収入源もないし、働かないと。
でも、私働いたことない。
力仕事なら...いやお腹が少しづつ出てきてるし無理だ。
「何か!何か仕事はできませんか?」
「これだけ激しく動き回って何もないのはむしろ奇跡だ。
お腹の子供と関わってやってくれ。金は、傭兵でも、漁師でもみんなで稼ぐから心配はいらない。」
今意地を張る時じゃないのはわかってる。
でも...悔しい。
何もできない
「俺たちは子供を産めない。アルフレードの代わりしか今はできない。姫の出産は命懸けだろう。金を稼ぐだけが偉い訳じゃない。あと....」
ヘルマンは言いにくそうに言った
「みんな、この辺りの娼館の顔馴染みが多いから、俺たち関連の仕事って言ったら誤解されてとんでもない仕事を与えられるかもしれん。そうなったら、俺は王にも王妃にも顔向けできないし、間違いなく...」
ヘルマンはごくんと息を呑む。
「アルフレードに殺されるな。うん、王はヴィオラのためならと命を捧げたが、あいつはヴィオラのためなら命を奪いにくるタイプだ」
え??
あの優しいアルフレードが?
自己犠牲の塊のような人に見えるけど??
「姫はまだ男を見る目がないな。アルフレードは、相当な野心家だぞ。国を奪うことに関心はなくても、姫を手に入れることに対してはジュリアン王にもエドガー王にも負けてない。戦っている理由はヴィオラ一つなんだからな」
そう言われると...
わたしは思わず顔が赤くなった




