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【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


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62 最後の命令

船は出航した。

岸がどんどん遠ざかっていく。

冷たい風と波に、私は身が縮こまりそうになる。


「お腹に何かあったら……!」

思わず両手で腹を守ろうとした瞬間、足元がふらつく。

ヘルマンが柱につかまるように促し、一緒に支えてくれる。


冬だというのに、今日は波はそこまで高くない。

なのに、船は揺れる。

そうか、岸からものすごいスピードで離れていくのだ。


しかも、方向は南──。

ここから南は……都市国家群?

グリモワールには海はなかったはずだから。


え?どこ向かってるの?


ちらりとヘルマン提督を見る。

表情が険しく、急いでいる。

私の様子を何度も気にしている。

何か言おうとしているの?


「ヘルマン提督、この船、南に向かってますよね。それもすごいスピードで……どういうことですか?わたしは、どこへ連れて行かれようとしているんですか?」


吹っ飛びそうな体を支えてくれた手を「パンッ」と払う。

ヘルマンの目が大きく見開かれる。


私は正面から彼を見据えた。


たとえ海のもずくになっても、敵なら殺す!

アルフレードとは、生きると約束した。

だけど、慰み者になるくらいなら、ここで死ぬ!


「もう一度聞きます!あなたはわたしをどこに連れて行くつもりですか?オリヴィアンに戻って!」

大きな声で怒鳴る。


海なんかで……迂闊に船に乗ってしまった自分の甘さに舌打ちしたくなる。


だが──


「ひ、姫!違う!わたしは姫の敵ではない!この命は姫に捧げる!この船は都市国家群に向かうが、それは王の命令だ。俺は、戻らない。これが最後の奉公だからだ」


明らかに動揺した声でヘルマンがどう伝えたらいいか迷うように言う。でも...


最後……最後?

いまなんて言った?


「最後って……最後って何!?」

思わずヘルマン提督につかみかかる。


「提督!言って!お父様に何があったの?」

襟元を掴み上げる。


それでもヘルマンは苦しそうな顔をするだけだった。


「何か言いたそうじゃない!どうして黙るの?わたしは姫よ。この国の継承者よ。ねえ、言ってよ。わたしが知らなくて、提督が知っているなんて……ねえ!」


「……すまない。王は……王と王妃は自害された。俺は、姫とお腹の子を守ると、命を賭してでも約束したんだ。アルフレードに必ず合わせるって!」


自害……?

自害って、何?何のこと?


「どうして!どうしてお父様とお母様が自害するの?」


だって、あんなに防衛準備をしていたじゃない。

わたしが王都を発ったのは、数日前よ。

いくら何でも、王都が落ちるのは早すぎる。


ヘルマン提督は手紙を見せる。

ヴィオラ宛、アルフレード宛の手紙もある


涙を流しながら、彼は言った。

「姫、すまない。姫とお腹の子を、アルフレードが帰るまで、王の代わりに守らせてほしい」


嘘よ……!

嘘よね……!


だが、ヘルマン宛の文面は見覚えのある筆跡だった。




――ヘルマンへ


今まで私を支え、この国を支えてくれたことに感謝する。

私たちはみんなが平和に生きられるよう尽力した。

だが、その結果は生きて見られそうにない。

そして、最後に嫌な役目を押し付けてしまうこと、すまない。


当初の指示通り、ヴィオラを連れてオリヴィアンの地から逃げてほしい。

グリモワールからアルフレードが援軍を連れてくるとの連絡はあったが、防衛線は突破されつつあり間に合わない。

もし間に合ったとしても、アルフレードたちは犬死にするだろう。


ジュリアン王は容赦なく誰も殺す。

城門が破られたら、多くの血が流れる。

私と王妃は自決する。ヴァルトシュタインの属国となり、民の命を守ることに専念する。


だが、お前の役割は違う。

ヴィオラとアルフレード、そして未来のオリヴィアンを守る子供を守ってほしい。

彼らは必ずオリヴィアンを取り戻す。その手助けを、お前に最後まで託す。


ヘルマン、君のような部下に出会えたことは、私の誇りだ。

感謝している。ありがとう。


――セバスティアン王




手紙を握りしめ、ヘルマンは声を出さず、ただ涙を流し続ける。

わたしは呆然とした。


「どうして?どうしてお父様、お母様……どうして何も言ってくれなかったの?提督!」


私は悲しみと怒りと、訳のわからない感情をぶつけるしかなかった。

ヘルマン提督は、どんなに掴みかかっても、胸を叩いても、背中を撫で続ける。


私は気が遠くなるほど、泣き喚くしかなかった。


「お父様!!お母様!!どうして!?アルフレード、助けて!助けてよ!!お父様とお母様を助けてよ!!」


必死で向かっても間に合わないアルフレードを思い出し、会えない彼を想い、私は泣き叫んだ。








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