57 祖父の後悔と、俺の決意
「祖父上様、お願いがございます」
アルフレードは、憔悴しているエドガーに声をかけた。
「公にはしないでいただきたい。実は、ヴィオラには私の子供がお腹にいるようなのです」
アルフレードはエドガーを見つめる。
祖父のエドガーには申し訳ない。
だが、生きている時から縁も薄かった上に、自分の片目をこのようにした父に時間を割きたくない
「私の命もないかもしれません。でも、私を可愛がってくれたオリヴィアンに恩を返したいのです。そして、妻とこのグリモワールとオリヴィアンの架け橋になってくれる我が子を守りたいのです。」
エドガーが驚いたように顔を上げる
「子、子供がいるのか!なぜそんな大事なことを早くいわない」
エドガーは焦ったように、アルフレードの肩に手を置く
「危険じゃないか。王はやられても、女性や子供は、命は取られないかもしれない。だが、唯一の子で、更に、腹に子供が、しかもオリヴィアンとグリモワールの継承者がいるとなれば別だ」
アルフレードも苦しそうに頷いた。
だから、早く駆けつけたいのだ。
「分かったのが、南部に攻め込んでいる時ですでに俺の名前で旗を振った後でした。それに、ヴァルトシュタインの人間がどこに隠れているかわからない場面で迂闊にそのことをお伝えできなかったのです。」
グリモワールには、あまりに多くのヴァルトシュタインの人間が入り込んでいる。
エドガーの周辺は、王であった頃から支えているものばかりだから、比較的安心していた。
それでも一人でも話が漏れればヴィオラの命の危機につながる。
今話しているのは、先日心温まる時間をエドガーと過ごせたからだ。
やっとグリモワールに信頼できる人が現れたように感じていた。
だが、今も誰もいないことを確認して告げている状況だ。
エドガーも思案していた。
「確かに王城は取り返した。だが、その城やその周辺は火災でかなり燃えているからな。お前と共に連れていく兵をどのくらい確保できるか急いで考えよう」
アルフレードは、エドガーを見つめた。
「行ってよろしいのですね」
今すぐ、行きたい。
1日でも早くヴィオラの元へ。
「もちろんだ。王城を抑えたことと、フェリックス王が死んでアンジェリカとヴァルターが行方不明なことは報告に出す。それに兵を...15000追加で派遣することとお前が行くことを連絡しよう」
「ありがとうございます」
アルフレードはほっとした。
「ただ、何も解決しておらん。聞き取りからヴァルターは、ヴァルトシュタインに連れて行ったようだが、アンジェリカが城を離れるときには、もう南部の山越えはできなかったはずだからな。」
「グリモワール国内にまだいるのでしょうか。もしくは北部からヴァルトシュタインに入ったのでしょうか?」
「うーん、指揮系統が残っていてギリギリまでいたわけだから、南部にまだ潜伏しているか、都市国家群に逃げたかもしれん」
エドガーはため息をついた。
「王城の中は、まだそれなりに直せるだろう。だが、南部にまだ残る残党の始末、道や建物の整備も必要だ。そして、当面の問題として、焼け出されたり家族を失ったものたちへの生活の支援も必要となる。」
アルフレードも、今後のグリモワールのことを考えると頭が痛かった。
しかも、終わっていない。
これから、オリヴィアンを通過して、グリモワールの北部攻めの可能性も十分ある。
「正直、わしの人生は何だったのかと思う…だが、これだけ息子が色んな人に迷惑をかけた。自分の幕引きは、せめて綺麗にせねばなるまい」
「幕引きって!そんな」
「大丈夫、歳だって意味だ。アルフレード、すまなかったな。フェリックスが歪んだ性格になってしまったのは、私とフェリックスの関係のせいだ。」
エドガーは、自分の過去の行いとそれによって生じたフェリックスとの溝について話をした。
「お前に流行病に罹患させようと思った理由はわからない。だが、仮になにか恨むとしても5才の子供だ。お前に非があるわけがない。
非があるのは、あの子の母を、大切に扱わなかった私だ。そして、否定ばかりせず、フェリックスともっと対話を繰り返していたらよかった。」
エドガーの目尻から涙が溢れる。
「後悔してはいけない。アルフレード、お前は妻と子供を大切にしてくれ」
「はい、祖父上様、ありがとうございます」
アルフレードとエドガーはお互い涙を流して抱き合った。
エドガーもアルフレードも、フェリックスとこんな関係を築けていたなら...
でも、後悔しても遅いのだ。




