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【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


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55 流行病が奪ったもの

アルフレードにとって、あの流行病の記憶は――思い出したくもない悪夢だった。


熱にうなされながらも、頭の中には問いが浮かぶ。

――なぜ、父は俺をそこまで憎んだのか。


母・アンジェリカは、昔から厳しかった。

勉強をさぼれば鞭が飛び、時には張り倒されたこともある。

でも、勉強が終われば、母はいつも優しかった。

勉強が終われば、笑顔で背中をさすってくれた。


普通なら別室で眠るが、俺と弟に添い寝してくれたこともあった。

眠る時には、色んな国の話をしてくれた。

ヴァルトシュタインの話も、グリモワールにはない食べ物の話も、兄であるジュリアン王の話も...


「お母様……体が痛いです」


ある日、五歳の小さな俺の身体は、高熱で震え、喉の渇きも、痛みに襲われる。

全部が耐えられなかった。

口にする水も、食べるものも、すぐに吐いてしまう。


母の、アンジェリカの顔色がサッと変わる。


「すぐお医者様に診てもらいましょうね」


それが――母の、最後の優しい言葉だった。


俺は先ほど燃やした小屋を思い出す。

当時はもう少し綺麗だったが、5才の自分にとっては突然閉じ込められ隔離されたので、恐怖でしかない。


今から考えたらおかしな話だ。

当時、あの時までは別に迫害されていたわけではない。


流行病とはいえあんな変な小屋に王子を隔離するか?

あの隔離も父が医者を抱き込んで、孤立させようと殺そうとした策略かもしれないな


アルフレードはため息をつく。、




「お願い!お部屋に戻して!お母様!!お母様!!」


俺は吐き気と眩暈で動けなくなりながら泣いた。

熱が体力を奪う。

でも、基本的には誰もこない。


「アルフレード様、このご病気はうつります。王や王妃様にうつすわけには、王城で流行らせるわけにはまいりません」


使用人すら最小限の関わりだった。

ご飯は準備されるが、食べられる状況ではない。


膿疱ができて、顔中が痛くてかゆくてたまらなくなった。

ひたすら苦しみの中掻きむしる。


「痛いよ!痛いよぉ!!」


泣いて叫ぶが、その時にはもう、顔中が腫れ上がり誰が誰だかわからない。


「おそばにおりますよ。アルフレード様」


必要最低限といわれても、子供の叫び声に耐えられない。

こっそり小屋に入って世話をしてくれる使用人も、顔の爛れのあまりの酷さに言葉を失う。


これ以上掻きむしらないようにと手に袋を当てられ、跡が残らないレベルで手を拘束される。


「お母様!助けて!お母様!!」


母を何度も呼んだのはあれが最期だっただろうか。


甘い果物や、蜂蜜の入った飲み物を与えられながらただ地獄の日々をすごした。


でも本当の地獄は、熱が引いた跡だった。

目が潰れていた。

片目は何も見えなくなってしまったのだ。


それでも、隔離部屋から出られたことが、アンジェリカに会えることが嬉しくて俺は母の部屋に向かっていった。


今でも鮮明に覚えている。

赤い絨毯が敷かれた階段を病み上がりで、ふらふらしながらも嬉しくて走ったんだ。


「アルフレード様、走ってはなりません」 


そんな声がしていたけど、俺はみんなを振り切ってて俺は走った。笑顔が溢れていた。


やっと戻れる!!


そして、王城の廊下で父とぶつかってしまったのだ。


ドンッ


父は、当たった瞬間驚いたようだった。

だが、病み上がりの爛れた目で見上げた俺を一目見て「にまっ」と笑った


ざまあみろーーー


そのまま、立ち去る。えっ?と思った。

でも、アルフレードには母に会うことの方が重要だった。


ほとんど会うことも話すこともない俺にとって、父は他人だった。

父と会話を交わそうとも思わなかった。


だが...


「おかあさま!!」


母アンジェリカを見つけて、駆け寄った俺...

だが、


「来ないで!!」


母に、アンジェリカに突き飛ばされた日のことを今でもスローモーションのように夢に見る。


母が、俺の顔を見て汚いものをみるように突き飛ばしたあの顔を今も忘れない。


アルフレードはため息をつく。

侍従の話と照らし合わせるなら、父が仕組んだことだ。


父とはあの時会ったのか。

あの時にすでに恨まれていたんだな。

会った記憶がないほど、関わりは薄かったのに。


あの流行病で俺の人生は変わってしまった。

ざまあみろと言われるほどに。

来ないでと拒否られるほどに。


一番つらかったのは、片目を失明したことでも、顔に跡が残ったことでもなく、親子のつながりがこの日を境に切れてしまったからかもしれない



父の遺体は腐敗が進み、すごい臭いを放っていたが、顔の判別がかろうじて出来るレベルだった。


地下に置かれていたのと、今が冬だったのが幸いした。

そうでなければ白骨化してしまっていただろう。

エドガーが顔を見て確認する。

だが、その瞬間男泣きし始めた。


その後はすっかり憔悴してしまっていた。


俺は、父の亡骸をみても、父だと断言できるほど父の顔を覚えていなかった。

そして父に対して何も感じることができなかったーー



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