54 腐臭の中で見つけた真実
グリモワール王城の探索は隅々まで行われた。
地下で見つかったのは――父フェリックスの亡骸だった。
冷たい冬だというのに、そこは腐臭に満ち、ハエとうじが群がっていた。
厨房の料理人によれば、異変があったのは三ヶ月前。
「オリヴィアンから大使が来て、宴会の仕込みをしたんです。だからよく覚えてます。その直後に地下の使用が禁止されて……困りましたよ」
だが、アルフレードが一緒に話を聞き始めると
「アルフレード様、ご立派になられて」
この料理人は、幼いころ何度も食事を抜かれた自分に、こっそり料理を分けてくれた人だった。
「迷惑をかけてしまったな。……まだ皆が不安な時だ。君の料理で元気づけてやってほしい」
そう告げると、他の料理人たちも一気に口を開いた。
「王妃や側近から、地下は絶対に開けるなと命じられ、鍵を掛けられたんです」
「でも、おかしいってみんな噂しましたよ。だって臭いが半端ないし。」
聞き取りをしていると、料理担当の者たちは地下の食材やワインセラーに臭いがうつりそうで気になっていたという。
「何か良からぬものを隠しているに違いない」
「しっ!誰かに聞かれたらどうする?」
「触らぬ神だよ。近寄らないほうがいい。」
そう噂話はあった。
でも、誰もが恐ろしくて寄らないようにしていたそうだ。
「母を……アンジェリカを最後に見たのはいつだ?」
口にした瞬間、胸がざわついた。
嫌な予感しかしない。
侍女たちにも聞いていく。
顔馴染みのものもいくらかいた。
「この城下周辺が燃やされ始めたり、みんなが逃げ出し始めた頃だから...1ヶ月前でしょうか?」
「アルフレード様が、立ち上がられてまもなくです。城内のものなら、誰もが酷い仕打ちをされていたことは存じ上げておりましたからここで祈っておりました」
当時アルフレードに対して優しかったわけではないが、アルフレードに対してのアンジェリカの仕打ちに心を痛めていたと話す侍女が、今は侍女頭になっていた。
どこまで、本当のことを話しているかはわからないが、アンジェリカが連れていくことはなかった侍女になる。
一応、「ありがとう」とお礼を伝える。
「でも、アンジェリカ様だけでヴァルター様は開戦より前に早くに家臣の方と立ち去られました」
侍従が困ったように話に加わった。
この侍従も見覚えがあるな。
幼い頃から自分の周りの世話をよくしてくれた人だ。
流石に懐かしくなる
「家臣?俺の知っている人かな?」
「いえ、おられなくなってから増えました。アンジェリカ様が家臣の方を雇用しておられましたが、大層信頼されておられる方々のようでした」
(ヴァルトシュタインか?捕縛したものたちからも、話を聞いたほうがいいな)
「他に変わったことは?」
侍従は思い出すように首を傾げた。
「そういえば三ヶ月ほど前……アンジェリカ様に呼ばれて、アルフレード様のお世話をしていた頃のことを聞かれました」
「俺のことを?」
「はい。普段そんなことお聞きになりませんから記憶に残っています。……病を患われる前に、フェリックス様の側近から『エドガー様の元で学ばれる筆記用具は、これで綺麗にして持たせろ』と布を渡されました。その話を詳しく聞かれました」
アルフレードの動きが止まった。――それは。
「その側近は誰だ?」
「フェリックス王に仕えていた方ですが……酒癖が悪く、問題を起こして亡くなられたとか。アンジェリカ様からも同じことを尋ねられましたが……何か?」
声が遠くに響く。
父の家臣に家臣を始末させた――かつてエドガーから耳にした話。
ざまあみろ、と笑った父の声が、頭の奥で繰り返された。
――やはり、父が俺を陥れたのだ。




