53 翻る旗、遠ざかる想い
アルフレードが王妃たちの居住区を捜索している頃――
エドガーは側近に声を飛ばした。
「王城を奪還したことを知らせろ!一番高い塔に、グリモワールの旗を掲げろ!」
煤けた古い旗の中で、真新しい国旗がひときわ大きく光を受けてはためく。
同時に城門や城壁にも次々と旗が立ち、城の鐘が鳴り響いた。
ゴーン ゴーン ゴーン。
腹の底に響く音が、戦場を切り裂いていく。
――戦争は終わったのだ。
その音は王都中に広がり、抵抗を続けていた者たちの力を削いでいく。
兵も、民も、逃げ惑っていた者たちも。
まるで潮が引くように、剣を置き、戦いをやめていった。
崩れた瓦礫。
涙を流す者。
笑って「終わった」と叫ぶ者。
ヴァルトシュタイン兵の残党は、影のように散っていく。
城下には勝利宣言が貼り出される。
「グリモワールに平和が戻った」と大きく。
歓声が沸き起こる中、アルフレードは王妃の部屋を探し回った。
――くずかごに、何通もの書き損じた手紙。
宛先は、ヴァルトシュタインのジュリアン王か?
書かれ方は違っても内容はどれも同じ。
夫を殺した。
フェリックスが許せない。
だからグリモワールを討ってくれ。
母の筆跡のように思える。だが、なぜこんなものを残す?
罪を犯しました、見つけてください――そう言っているようにしか見えない。
そして、父は本当に母に殺されたのか。
分かっていたはずなのに、胸に衝撃が走った。
「城内のヴァルトシュタイン兵を全員捕えろ! 情報を持っているはずだ。手荒にするな、自害もさせるな!」
外では、民が歓喜の声をあげている。
《王妃に虐げられ、片目を失い、国外追放同然でオリヴィアンに渡ったアルフレード王子が――祖国を救うため戻ってきた》
……まだ何も解決していない。
父も、母も、弟も見つからない。
それでも俺は笑顔で手を振り、国民を安心させねばならない。
だが――俺の帰る国は、ここじゃない。
俺が守りたいのはオリヴィアンだ。
助けたいのはヴィオラと、そのお腹の子だ。
ヴァルトシュタインは、今にもオリヴィアンへ攻め込むかもしれない。
この勝利は囮にすぎないのに。
迫害した国のために、俺は旗を掲げ、勝利を宣言する。
グリモワールの平和のために...
それはオリヴィアンのためでも、愛するヴィオラのためでもない。
――翻る旗を見るたびに......ヴィオラが遠ざかっていく気がした。




