49 宣戦の書状
ヴァルトシュタインのジュリアン王は、王座に一人腰掛けて思案していた。
普段、この椅子は式典や謁見のとき以外、誰も座らない。
だが同時にこの席は、自分だけが許された席だ。
王として決断を下す時、この赤いビロードの玉座に座ると、雑念も情も切り捨てられ、冷静になれる。
広間には誰もいない。静寂の中、ジュリアンはこれまでとこれからを秤にかけていた。
(狙いは確実にオリヴィアンを抑えることだ)
オリヴィアンは資源も豊富で、海も陸もある。
さらに、グリモワール、ヴァレンティア、ヴァルトシュタイン――三国すべてと隣接している。
この立地はあまりに魅力的だ。
だが、厄介なのはグリモワールだ。
グリモワール王の嫡男――アルフレード。
片目を失ったせいで、家督争いからは早々に外されていた。
そんな子を、オリヴィアンの姫と結婚させる。
ここまでは戦略として理解できる。
だが、婿養子としてオリヴィアンに出すと聞いて、誰もが驚いた。
娘ならともかく、嫡男だ。
見捨てるには外聞も悪いし、オリヴィアンに何かあれば、グリモワールは必ず助けに行くことになる。
しかも北部を押さえているのは、前王エドガー。
彼が幼い頃からアルフレードを可愛がっていたのも、皆が知っている事実だった
――だから、地盤を固め、まずヴァレンティアから攻めていくつもりだった。
それが、予想外のことが起きた。
アンジェリカは理知的で冷静な妹のはずなのに。
いや、神は自分に味方しているのかもしれない。
これ以上の戦略はないように思える
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父である前王グスタフが亡くなり、ジュリアンは王位を継いだばかりだった。
父とは不仲で、かつて父に尽くした家臣たちは、敵だった。
だが、国内に敵を増やすのは得策ではない。
話し合いを重ね、父の家臣たちを自分の側に取り込み、地盤を固めている最中だった。
さらにアンジェリカの手引きで、グリモワール南部には、自分が王になる前から家臣を潜り込ませていた。
アンジェリカとフェリックス王は冷え切った関係で別居中。
必要な公務以外では顔を合わせない仮面夫婦。
とはいえ、それでもバレないとは、よほどの愚王なのだろう。
しかも次男ヴァルターも――潜り込ませた家臣の情報では、賢王にはほど遠いらしい。
「部屋にネズミが出た!」と大騒ぎ。
気に入った侍女にはちょっかいを出し、叱られれば「寂しいんだ」と泣く。
剣の稽古では「痛い」「重い」「相手が悪い」と言い訳ばかり。
勝たせてやらないと地団駄を踏む始末。
――これがもう十六歳だと?愚か者め。だが操りやすそうだ。
アンジェリカが甘やかしたのか、フェリックスに似たのか……。
どちらにせよ馬鹿息子だ。
だが、その方が操り人形にするには都合がいい。
そんなアンジェリカから、火急の書状が届いたのだった。
《夫であるフェリックス王を――私の手で討ちました。
グリモワールに未練はありません。
今後はヴァルトシュタインのために動きます。
力を貸してください。》
王を殺した!!
馬鹿な!
ヴァルトシュタインの一の姫が、グスタフ前王が亡くなったと同時に、グリモワールの王を殺めるなんてーー
即位したばかりの俺がグリモワールに宣戦布告したも同義じゃないか。
しかも、アンジェリカも間違いなく極刑となる。
どうしたらいい?
考えろ!!
ジュリアンは、拳を握りしめ蒼白になっていた




