48 雪深き王都の防衛
セバスティアンはシリル騎士団長と顔を突き合わせ、防衛線をどこに張るか決めた。
ヴァルトシュタインに好き勝手通させるわけにはいかない。だが広すぎる範囲は守れない。
結論は――グリモワールへ続く道、その一歩内側。
そこなら兵力でもまだ拮抗できる。
女性と子供は、王都から少し離れた東の港町へ移すことにした。
海路があれば食糧の心配が減る。
また、一般的に考えれば、国民すべての虐殺は考えにくい。
だが、心の底では不安が拭えない。
ジュリアン王が女や子供をどう扱う人物なのか――セバスティアンには読めなかった。
ヴィオラは正義感が強い。
おそらく、前線で戦うというだろう。
それが無理でも、わたしの盾になるというに違いない。
リリスの報告だと、おそらく妊娠しているのではないかという兆候がみられるようだ。
ヴィオラは未来の王、そしてその子供は未来のグリモワールとオリヴィアンの架け橋になってくれる子に違いない。
ヴィオラが無事である限り、ヴァルトシュタインの思い通りにはならない。
ヴィオラには気づかれないように、女性や子供の避難の誘導をさせて、戦火から離れさせよう。
あの子は私の意志を引き継いで立派に育ってくれた。
セバスティアンは覚悟を決めた。
海軍ヘルマン提督を呼び、王として命令を下す。
「ヴィオラは、女性や子供たちが避難する東の地域を守らせる予定だ。表向きにはしないでほしいが、妊娠している可能性がある。もし、王都に何かあったらヴィオラが何を言おうと連れて逃げて守ってくれ。あの子は未来のオリヴィアンに必要だ」
ヘルマンは妊娠と聞きハッとしたようにセバスティアンを見つめたが頷いた。
「この命に変えても。そして、必ずアルフレードの元に連れて行きます」
セバスティアンはそれを聞き、ほっとしたように微笑んだ。
ーーー
ただ問題は雪だった。
雪解けが始まるまでにはあとひと月ほどはかかる。
今は一番寒く、雪深い時だった。
まだ深く積もっていて、女性や子供が進むのは楽じゃない。
それでも、避難を希望するものは多かった。
案の定、ヴィオラは
「父上やリリスを守る盾になります」
と宣言した。
ヴィオラは目に涙を溜めて、拳を握りしめ、背中を伸ばした。
「わたしは未来の王です。そして、王と王妃とこの王都を守ります。ここから離れるなんて!何もしない王に誰がついていくんです?」
「お前は、女性と子供を無事に避難させることを軽んじてないか?避難の先導役は誰がする?」
セバスティアンが、その役割は必要だと説得すると、しぶしぶ頷く。
「ですが、少しでも変な動きがあれば、必ず私は王都に戻りますから!!」
涙をにじませるヴィオラに、リリスはそっと微笑んだ。
「お腹に子がいるなら、それはあなただけの命じゃないのよ。この雪道だって、本当は行かせたくないわ。でもね、女性と子供を安心させられるのは、あなたが一番適任なの。屈強な男たちに囲まれるより、女の人がそばにいてくれる方が、みんな心強いのよ。だから、ここは私たちに任せて、あなたはあなたの役割を果たしなさい」
そう言われてしまえば、ヴィオラは言い返せなかった。
「わかりました。みんなを無事に送り届けます。でも、何かあったら絶対もどりますから」
一方で、貴族の一部はさっさと荷をまとめ、グリモワール中部へ避難していった。
セバスティアンは苦々しく唇を噛む。守るべき時に逃げるとは――。
防衛線を突破されれば、戦うのは騎士だけじゃない。
一般市民の男たちも武器を取る。剣を振ったことがなくても構わない。今は一人でも多くの手が必要だ。
だからこそ、団長のシリルも、副団長のリチャードも剣の扱い方を教え、若者や職人たちにまで剣や槍を握らせた。
さらに、頑健な者を選抜し、防衛線の工作にも従事させた。雪を固めて壁を築く。橋を壊し、川の氷は敵が渡りきる前に割ることができるよう細工をする。
深雪に足を取らせ、進軍を遅らせるための罠も仕掛けた。
セバスティアンはグリモワールへのヴァルトシュタインの動きを見て、来るなら雪解けを待つようなセオリーは取らないだろうと確信していた。
ジュリアン王の狙いは、オリヴィアンだ。
どれも短期の策にすぎない。だが、援軍が来るまでの時間さえ稼げればいい。
グリモワールの援軍が間に合うように、オリヴィアンの独立を保つために諦めるわけにはいかなかった。




