47 迫る戦火、揺るがぬ想い
先触れが告げた知らせに、セバスティアンは頭を抱えた。
――やはりヴァルトシュタインが動いたか。
しかも厄介なことに、グリモワールからの援軍は当てにならない。
狙いは何だ?
オリヴィアン全土を奪うつもりか。
それとも、私の首か。
いや――本命はグリモワールかもしれない。
通り道として、オリヴィアンを削ぐ気か。
正直、ジュリアン王の戦術は見事としか言いようがない。
グリモワール南部の攻勢は囮だった。
先触れの報せでは、南部へ差し向けたヴァルトシュタインの軍勢はあまりにも少ない。
その上、グリモワールの王都を焦土にして時間稼ぎをしているらしい。
つまり――。
グリモワールに兵を南へ釘付けにして、オリヴィアンに援軍を送れなくする。
さらにグリモワールに山道を塞がせ、ヴァルトシュタイン国内への兵の流入はさせないようにする。
後は簡単だ。
オリヴィアンを叩き、その勢いでグリモワール北部へ雪崩れ込む。
あるいは、本気でオリヴィアンを潰す気か。
セバスティアンは深いため息をついた。
この冬の間、彼はヴァレンティアに同盟を持ちかけていた。
もしオリヴィアンとヴァレンティア、さらにグリモワールが並び立てば――ヴァルトシュタインに勝つことは夢物語ではない。
だが現実は甘くなかった。
ヴァレンティアの答えは「様子見」。
曰く、ヴァルトシュタインはグリモワールと本格的な戦争状態にあり、ヴァレンティアへの侵攻は当面考えられない。よって現時点での同盟には利がない。
(より良い条件で同盟を結ぼうとしているのかも知らんが……平和な状況が続いてきたことで危機感がなさすぎる)
セバスティアンは渋面をつくり、側近へ声をかけた。
「シリルを呼べ。騎士団長と共に防衛体制を考える」
問題は、いつ来るかだ。
本当に雪解けを待つのか――それとも。
セバスティアンは思案した。
ーーー
ヴィオラは、自分宛のアルフレードからの手紙を抱きしめた。
どうして、私の不安がわかるのだろう。
自分が結婚を強要したのではないかと怯えていたが、その気持ちは一瞬で打ち消してくれた。
だが、同時に悟ってしまった。
オリヴィアンの置かれた状況は厳しい。
命の危機がすぐそこまで迫っている、と。
まずは、女性や子供を安全な地域に逃がさなければ。
そして、男性には戦場になる前に少しでも剣を持たせないと……。
そう思い、ヴィオラは立ち上がった。
――まだ先触れが帰る前なら、手紙を託せるかもしれない。
どうしても伝えたいことがある。
ペンを握りしめ、彼女は書き記した。
アルフレードへ
連絡受け取りました。
必ずこの国を守り、あなたの帰りを待ちます。
……そして――。
私は、あなたの子供をお腹に宿しています。
だから、あなたに会って子供を抱き上げてもらうまでは死ねない。
どんなことをしても生き延びるから、あなたも絶対無事にいてください。
わたしも、あなたを愛しています。
ヴィオラより
封を閉じたとき、ヴィオラはそっと息をついた。
生きていたら、今度は直接言葉で伝えられるかしら。
それとも、また手紙になるのかしら。
その時には――きっと、あなたと私に似た子供が隣にいる。
「絶対に生き抜く」
ヴィオラは雪が舞う薄暗い空を見上げた。




