46 君のために戦う日々
「オリヴィアンに先触れを出し、いくらか兵も同時に動かそう。だが、中途半端にせず、きちんと南部を奪還して、ある程度安定させなければならない」
エドガーは宰相のオスカーと相談し、アルフレードに返答した。
オリヴィアンが狙われる可能性を考えれば、兵を出さないわけにはいかない。
しかし、南部を抑えておかないと、いつまでもゲリラ戦をしかけられる。結局、オリヴィアンのためにならないのだ。
雪に覆われたオリヴィアンも、あと一か月もすれば春の柔らかい日差しが増し、雪解けが始まる。
さらにひと月過ぎれば、完全に雪は消えるだろう。
ヴァルトシュタインがどのタイミングで動くかはわからない――だが、時間は限られている。
アルフレードは、先触れに国の連絡とは別に、一通の手紙を託した。
悔しい。
何のために俺は今まで鍛錬を積んできたんだ?
好きな女一人、そばについて守れないなんて。
ヴィオラのそばに行きたくて、守りたくてたまらない気持ちを心の中で抑えながら、手紙を託すしかなかった。
⸻
ヴィオラへ
変わりはないだろうか。
俺は君の元に早く戻るため、必死に戦っている。
でも、君の危機かもしれないのに、守れず戻れないことが正直とても苦しい。
オリヴィアンに危機が迫っていると思う。
それなのに、君の無事をただ祈ることしかできない。
この手で、君を抱きしめられないことがとてももどかしい。
どうか、絶対に生き延びてほしい。
君が生きていることだけが、俺の生きる理由だ。
本当に欲しいのは、ただ君と笑顔で過ごす日々だ。
絶対に、君の元に戻る。そう約束したからね。
だから、まずは自分の身を守ってほしい。
どんな困難があろうと、君を想う気持ちは揺るがない。
君を愛している。政略結婚なんて関係なく、君を本当に愛している。
アルフレード
ーーー
先触れが北へ向かうのを確認して、俺は小さくため息をついた。
――本当に、自分は何をやってるんだろう。
そんな様子を見たエドガーが、静かに声をかける。
「オリヴィアンの姫とは、うまくいってるようだな」
俺は弱々しく微笑んだ。
「はい。姫は、今の俺の生きる希望です。政略結婚なのに、恵まれていると感じています」
オリヴィアンに来てからの出来事を、俺は祖父に話した。
ヴィオラのことを、誰かに聞いてほしかったのだ。
「父母とはうまくいきませんでした。人質のような扱いでオリヴィアンに渡り、正直、人間不信のような状態でした。ですが、初日から姫はずっと支えてくれました」
俺の気持ちは伝わったのだろうか。
エドガーも、型破りなヴィオラの話に驚きながら耳を傾けてくれる。
「ほーっ!女剣士か」
初めて祖父と、こんな温かい会話ができた気がした。
――グリモワールにいたころ、これができていればよかったのに。
求めていたものは、手に入りそうで入らなかった。
だから、俺は早くヴィオラの元に帰りたい。
「さて、この後だが、グリモワール東の都市国家群に協力をもらうつもりだ」
エドガーが低くつぶやく。
グリモワールには海はない。だが、南北に細長く広がる沿岸には、独立した都市国家が点在していた。
国ほど大きくはないが、海洋貿易で豊かになり、独立心は強い。
厄介なのは、文化も思惑もバラバラなこと。状況次第で、敵にも味方にもなるのだ。
「恐らく、今回もどこかの都市がヴァルトシュタインに協力しているだろう。だが、グリモワールが負ければ、自分たちも攻撃されるリスクは高い。目の前の南部の焦土を見れば、協力してくれるはずだ」
協力を取り付ければ、ヴァルトシュタインへの食糧供給を止めたり、港を使えるかもしれない。
海を通じて、オリヴィアンの海軍と連携する可能性も出てくる。
少し希望が見えた。
俺は自然と祖父に笑みを向けた。




