45 冷たい部屋、温かい記憶
誰もいない部屋で、ヴィオラは今日も泣いていた。
ぎゅっとアルフレードの寝衣を抱きしめる。
もう香りも残っていない。
もしかしたら、私の涙の染みの方が多いかもしれない。
まだ出ていって2ヶ月。
たった2ヶ月なのに。
それまでアルフレードがいなかった頃、ここでどうやって過ごしていたんだろう…ふっと笑ってしまう。
冬の冷たさが、孤独を一層際立たせる。
長く、ひとりで冷えた体でいることなんてなかった。
アルフレードと過ごす冬は、いつも温かかったからだ。
――寒い夜、二人で毛布にくるまり、本を読み、私の冷えた手をそっと温めてくれたこと。
くすりと笑う。
「寒いんだもの! 一緒に毛布に入りましょう!」
まだ子どもだった私が、無邪気にベッドに誘う。
アルフレードは少し困った顔で言った。
「同じ布団で横になるなんてダメだよ。結婚前なんだから」
彼は慌てて毛布をソファに運び、怒る私を宥めると、隣に座った。
そして膝に毛布をかけ、冷えた手を握り、時々毛布の中に入れて温めてくれた。
あの頃は、頬にキスがあるかないかの関係だったのに。
(12、3歳の時だもの…すごすぎるわ)
年頃になるにつれ、アルフレードは少しずつつっけんどんになった。
喧嘩も増えたけれど、それでも私の体が冷えていたら、そっと毛布をかけてくれる――ずっとそんな関係だった。
私がファーストキスを奪ったあとは、抱きしめたりキスしてきたりすることが増えた。
そうなると、今度は私が恥ずかしさでツンデレな態度を取った。
でも、どんなときも、彼は私の意志を優先してくれた。
ただ、最後だけは違った。
グリモワールに行く直前の数日、私の意識も意志なんてなくなるほど、毎日激しく求められた。
(どちらが本当のアルフレードだったのだろう…)
それでも嬉しかったけれど、なぜか求められた数日後にアルフレードは謝るばかりだった。
その時は、考える余裕もなかった。
でも、ふと思う。
私のわがままで、彼の自由を奪っただけかもしれない。
本当に私との結婚を望んでいたのだろうか。
人質として来た彼は、私が望むことを拒めなかっただけかもしれない。
オリヴィアンの冬は、雪で城門も閉じられる。
外で強気に振る舞い、勉学に励んでも、心を癒すのはアルフレードとの思い出だけだった。
だから、こうして記憶を辿ると、温かい思い出と、アルフレードのことをちゃんと思いやれなかった後悔が胸を締め付ける。
――いっそ、前のように思い切って体を動かせばいいのだろう。
でも、体が教えてくれる。
腰が痛く、だるい。
月のものはまだ来ない。
匂いのあるものを嗅ぐと、吐き気がする。
冷えると腹部に痛みを感じることもある。
以前のような剣の訓練はせず、最低限の動きで体を温める。
もしかしたら、妊娠の兆候かもしれない――それでも、暗い考えが頭をよぎる。
アルフレードは、私との子を望んでいないのではないか。
この子は祝福されるのか。
望まれない子なのではないか――
振り払う。
少なくとも、私は望んでいた。
アルフレードとの子が欲しかった。
どこの国の子でも、オリヴィアンの子。
絶対に無事に産んでみせる――
拳をぎゅっと握る。
私は、この国の王となり、母となるのだ。




