4 婿入り先の十歳の姫は剣を握る少女でした
「グリモワール第一王子、アルフレードです。幼き身ではございますが、両国の絆となれるよう努めます。」
穏やかな微笑みを浮かべるアルフレードに、ヴィオラの父であるオリヴィアン国のセバスティアン王は本性を見極めようと目を細めた。
どんな第一王子がくるのか?
誰もが気になっている。
みんなのざわつきを感じる。
すでに片目が見えないことはオリヴィアンの騎士団も、海軍も城で働く全ての者たちが知っていた。
でもそのくらいでは第一王子を手放すとは思えない。
「よっぽど何か事情がある困った王子なんだよ」
みんなの中で意見は一致していた。
(だが、十二歳にしては少し小柄か?という以外に特に気になるところはないよな?)
セバスティアンは、上から下までじっとどこか問題があるんじゃないかと凝視する。
(しかし、綺麗な子だな。目のことがなかったらむしろ美少年だろう、大きくなったら絶対美形になるな。見た目はわからないな)
セバスティアン王は、ふうっとため息をついた。
(グリモワールが儀礼を尽くしてやってきているのだから、こちらも表向きは歓迎せねばなるまい。)
「遠いところからよく来た、アルフレード。疲れただろう。ゆっくり休ませてやりたいが、君がくるのをみんな楽しみに待っていたんだよ。今夜は、早速挨拶をしたい者たちが、大勢待っている。みんな楽しんでくれたまえ」
セバスティアンは、この行列に付き添ってきた臣下の手前、表向きはにこやかに歓迎の言葉をかける
先ほど城に入る前に、思わずフライングでヴィオラ姫が、一緒に城下を歩いてしまった。
しかし、華やかで豪華な馬車による行列と白馬に跨った姫が共に微笑み進むと、国民からは歓声の声が上がり良いアピールになったようである。
この結婚は、大国グリモワールとのつながりをもつものとして国民の間では好印象に映っているようだ。
セバスティアンは国民の反応にほっとする。
と同時にオリヴィアンがグリモワールに舐められても困る。
少し棘でもいれておくか。
「この国は、海からの資源も多く得られる国でね。宴では、見慣れない食材も多く出るだろう。口に合うかどうかはわからないがね」
セバスティアンは、グリモワールにはない海産物の話を振った。暗に、ここでの暮らしが合わなくて困るのは君自身だぞと伝えている。
アルフレードがにこやかに、セバスティアン王に返答する
「ヴィオラ姫から、オリヴィアンの海産物はとても素晴らしいとお手紙で教えていただきました。とても楽しみにしております」
そんなふうに美少年のアルフレードににっこり笑顔で話されて悪い気がするものはいない。
(黒いベルベットの眼帯の下を見てみたい )
そう思わせるほど黒い眼帯がアクセントになり、その美しい顔立ちに、目を奪われるものが多かった。
ーーー
歓迎会が始まると、ヴィオラ姫は可憐なすみれ色のドレスを着てアルフレードの横に立った。
アルフレードは、そこで初めて近距離で自分の妻になる予定の少女と出会った。
(かわいい、というか美少女だな)
思わず赤くなる。
外では城下の人々の前でじっくり顔を見ることは出来なかった。
母親同士は異母姉妹で、目鼻立ちがはっきりしているところは少し自分とも似た顔立ちだ。
でも、母ほど、きつい顔立ちではなく柔和だ。
髪も金髪ではなく黒髪。
彼女の母リリスも、美人ではあるが、母に比べると柔らかく線が細い。
(母に似ていない部分がある)
それだけでほっとする。
ちらっと、もう一度ヴィオラの姿を見る
(姿勢も良く体幹がぶれない。普段から、意識しているのだろうか?)
エスコートのために手を差し出す。
すると、ヴィオラは赤くなり、恥ずかしそうに自分の手をアルフレードの手の上に重ねた。
(やっぱりかわいい!けど...あれ?)
ふと、彼女の手を見ると――柔らかい手を想像していたのに、明らかに硬く、剣を握った跡がある。
「はじめまして、アルフレードです。お手紙と、今日は出迎えありがとう。とてもうれしかった。ゆっくりいろんな話を聞かせてくれるかな?」
アルフレードは少しその手に警戒しつつも、微笑む
「はい。お会いできるのを楽しみにしておりました。同年代で打ち合える者がいないので、早く一緒にお手合わせしていただけるのを、とても楽しみにしています」
ヴィオラもにっこり笑う。
――お手合わせ?打ち合い?
アルフレードは心の中で疑問を浮かべる。
オリヴィアンの女性は武道の嗜みでもあるのだろうか、と。
どう返答するべきか――少年は少し迷いながらも、その場の空気に微笑みで応えた。




