37 父の罪と王の覚悟
エドガーはため息をついた。フェリックスとは、どうにも馬が合わなかった。
フェリックスとアンジェリカは、後継を二人もうけると、義務を果たしたかのように別居していた。それは知っている。だが、別居して全てを放棄したのは許せない。フェリックスは後継の教育に熱心とは到底思えなかったのだ。
一方で、アンジェリカが教育熱心だという話は耳に入っていた。だが彼女は、グリモワールと並ぶヴァルトシュタインの一の姫だ。二人の子供が彼女だけに教えられるのは危険すぎる。ヴァルトシュタインの傀儡に育ちかねない。
「お前がグリモワールを支える子供たちを指導しないでどうする」と声をかけても、フェリックスは取り合わない。
小さいころのフェリックスは、私と気が合わず、堪え性もなく、訓練も学ぶことも嫌いで、ただ逃げ回っていた。
いや、それだけではない――これは、私の罪だ。
フェリックスの母は、かつて私が侵略したグリモワール南部の小国の姫だった。
私は一目惚れし、手に入れた。やがてフェリックスが生まれたが、純潔と両親を私に奪われた彼女は、子への愛着を持てず、ほとんど交流のないまま自害したのだ。
そのせいか。
今のフェリックスの無関心やわがままは、私の罪の跳ね返りのように感じられる。
母を失ったフェリックスは、褒めてくれる者しか知らずに育った。
成果を求める意欲は人一倍だが、グリモワールや家族のことには無関心だ。
アンジェリカとの関係も築こうとせず、アルフレードの片目が見えなくなったときは、自分の成果が落ちたかのように感じ、アンジェリカを責め立てたという話もある。
次男を後継にしたいと言うだけで、適性も確かめない。
家臣の話では、次男ヴァルターはどうやら継承者には向かないらしい。
私もヴァルターと接触を試みたかったが、私の元に通った後、アルフレードの病が発症した上に、フェリックスに責められたこともあり、無理はできなかった。
それでも、アルフレードの聡明さは目を見張るものがある。理解は早く、教えた以上の知識も自ら整理して質問してくる。
アンジェリカから学んだ内容との違いも問いかけ、家臣への配慮も忘れない。
アルフレードを王位継承者にはしないと聞いていたし、アンジェリカから虐待を受けている話も耳にしていた。
私は関わりすぎず、これ以上の親子の分断を招かぬよう、指導だけに徹した。
それでもアルフレードの素晴らしさは自然と耳に入ってきていた。
だからこそ、フェリックスがアルフレードをオリヴィアンに婿養子に出したと聞いたとき、驚きと愕然が同時に押し寄せた。
この国を……お前はグリモワールをどうするつもりなのだ、と。
ーーー
今、ヴァルトシュタインが攻め込んできている。
成長したアルフレードは、立派な青年となり、私の前に立った。
……だが、もう遅い。
あれだけの逸材を、オリヴィアンが易々と手放すはずがない。
すでに婚姻は成立していた。さすがはセバスティアン王、抜け目がない。
アルフレードの情報から、アンジェリカとジュリアン王の実母の内通疑惑を晴らすため、二人の結束が固かったなら...
もしアンジェリカの手引きがあったなら、関係の良くなかったフェリックスの命はもうないだろう。
結局、私が推し進めた侵略も同盟も拡張も――何だったのか。
大国となり、人々を豊かに暮らさせる。
それが、私と先祖の夢だったはずだ。
なのに今、頼もしく成長した孫を前にして、胸を締めつけるのは後悔ばかりだった。




