31 王女の覚悟、王子の選択
「嫌よ。私はアルフレードと添い遂げるって覚悟を決めたの。」
セバスティアンからアルフレードの判断を聞かされたヴィオラは、首を縦に振らなかった。
「そういう問題ではない。お前が継承者となる以上、お前の気持ちだけで決められない。国がどうあるべきかを考えなくてはならない。アルフレードはそれをお前の前で示してくれたんだ」
ヴィオラがどれだけアルフレードを愛し、頼りにしているかはよくわかっていた。
おそらく家臣たちも皆、知っている。
今日の軍備会議。
「アルフレードはどうすべきだと思う?」
私が皆に問う。だが、
「どうもこうも……あの人はこれからオリヴィアンの未来に必要な人材だろう」
ヘルマンもシリルも揺るがない。
ヴィオラが女王として擁立されるまで、アルフレードは必死に彼女を支えるはずだ。
ここ最近の様子を見て、それを家臣たちは理解していた。
結局、軍備会議でアルフレードを外したものの、ヴィオラの目の前でアルフレードを切り離す意見は一言も出なかった。
それを口にした瞬間、ヴィオラと家臣たちの関係が壊れると皆わかっていたからだ。
「ヴィオラ、オリヴィアンから見ればアルフレードがグリモワールに戻るのは助かる。だが、今日の会議でその意見は出たか?」
「そんなもの、出てないし出させないわ」
ヴィオラはキッとセバスティアンを睨む。
「そうだ。お前たち二人が支え合い、この国を治めてくれればと皆思っている。二人の結びつきも知っている。だから口にできなかったんだ。だから、アルフレード本人がグリモワールに戻ると意志を示したんだ。あんなにお前を思い続けてくれた男だぞ?」
それを望むはずがない。
私たちがアルフレードにその判断をさせたのだ。
ヴィオラは涙が止まらなかった。
女王になるって、こういうことなのか──。
努力して、誰よりも学び、力を持ち、正しい判断をする。
誰よりも国を思いやる。
それが女王だと思っていた。
でも、国を思いやるために、こんなに自己犠牲がつきまとうの?
それでも平和は保証されない。
誰かに感謝されるわけでもない。
命も捧げる覚悟がいる。
私、これからアルフレードがいなくてやっていけるの?
もし、お父様やお母様に何かあったら……
そして、アルフレードにも何かがあったら……
ヴィオラは黙り込む。
ふと考えれば、奪われることばかり考えてしまう。
そんなことを考えたら奪われないことにしか目を向けられない。
自分に、大きく息を吐いた。
「お父様、わかりました。私が頷かなければ、アルフレードを余計に苦しめてしまいます」
「わかったんだね」
セバスティアンは切なそうにヴィオラを見つめた
「ただ、アルフレードがいなくなれば、私もすでに適齢期。貴族たちからのお誘いが増えるでしょうね」
セバスティアンは、ヴィオラが突然何を言い出したのか戸惑った。
「まあ、アルフレードがいなければと思う奴は多いが、婚姻同盟は継続するから、とりあえずは……関係を持ちたいと思う奴ぐらいだろう」
「そんなお誘いが来ること自体、避けたいです。感情を切り離しても、私が今まで見た中で、アルフレードほど武芸に優れ、機転が利き、学びも深く、判断力のある男は見たことがない!」
「それは、同意する。今回のことも……あれであと少しで19歳?いや、末恐ろしい」
「私もあとひと月で17歳よ。何も問題ないと思うわ。むしろ、貴族の婚姻ならもっと早く結婚する人だっているんだし」
セバスティアンはヴィオラの言いたいことが理解できて、顔を真っ赤にした。
「お前は親に向かって何てことを……!」
「あら、これは政治の話よね。オリヴィアンがどうあるべきかって話。アルフレードがこの国を出るまでには少し日があるでしょう? 前王エドガー様にも連絡して返答がある間はまだいるでしょう」
「あ、ああ。いる。いるが……」
セバスティアンはごくんと息を飲む。
「セバスティアン王、これからアルフレードがこの国を出る直前まで、二人で過ごさせていただきます」
「ま、待て! そんなことをしたら……お前の将来が」
「認めてくれないなら、最後までアルフレードがグリモワールに戻ることに反対して回ります。自分のことしか考えない女王を、皆がどう思うかしら?ねえ、王様!」
オリヴィアンを含め、女性の純潔は重視された。
政治的に相当なリスクだ。
そして、もしも子供ができてしまったら...
「アルフレードとのつながりを切りたくないの」
ヴィオラは揺るがない目で、セバスティアンを見つめた。
結局、セバスティアンは娘ヴィオラの圧に屈したのだった。




