29 孤独な王子と王妃の紅茶
リリスはアルフレードの様子をじっと見つめていた。
自分の母国が攻撃されたのだ。
もう少し動揺するもんなんじゃないか?
もしかしたら、アルフレードはこちらに言わないだけで何か情報を持っているんじゃないのか?
セバスティアンは疑心暗鬼になりかけていた。
正直、リリスも驚いていた。
アンジェリカは、あんなに仲が良かったお兄様からの攻撃をどう感じたんだろうか?
これから、お兄様と自分の夫の交渉役を務めるのだろうか?
私が同じ立場になったら、どう動く?
紅茶の葉にお湯を注ぐ。
外はまだ雪は降らないが、ひんやり感じる季節になった。
あと、一月もしたら山は白く染まるだろう。
オリヴィアンは天然の盾ができる。
ふんわり紅茶の香りが漂って、私はアルフレードの元にそれを持っていく。
ん??
表情が固い。
いや、知らない人が見たら普段通り。
だけど、この子が私やヴィオラにかける優しさ、この国に来てからの孤独さ、ひたむきな努力、夫に対しての忠心、私は見ていたからわかる。
今アルフレードは私を疑っている。
紅茶にお礼をいいながら、それを飲んでいいのか迷っている。
「アルフレード、待ちなさい」
私は、アルフレードの動きを制した。
「えっ?」
アルフレードの動きは固まっている。
どうしたらいいのかわからないという不安そうな目は、ここに来た時ですらなかったのに。
私は、アルフレードのカップを取り、くいっと目の前で飲んだ。
「アルフレード、これに毒は入ってないわ。安心なさい」
「あ...あっ!すいません」
アルフレードは、目を見開いた。その目は、後悔で揺れている。みるみる間に緩んでいく。
「いえ、あなたの判断は正しいわ。むしろそれが正常よ。だって、私と兄姉の不仲を証明できるものはない。大人だって、こんなに国に尽くしてくれるアルフレードが、グリモワールの第一王子だというだけで今までの信頼が揺れている。あなたが揺れるのは当然のことよ」
私は、静かに涙を流すアルフレードの手を握った。
「アルフレード、あなたはこれからどうしたい?そして、今後どうなると思っているの?」
アルフレードは、少し戸惑ったように話した。
「俺は気づいてしまいました。母アンジェリカとヴァルトシュタインは繋がっているって。そして、一瞬王妃様も疑ってしまいました。こんなに可愛がっていただいてるのに...」
リリスは絶句した。
アルフレードから言われ、過去を思い出す。
実母が、内通の罪を着せられ殺されたと思っている二人の兄妹の関係は、ある種の同盟のような関係が成立しているように思えた。
「で、でも、アンジェリカ姉様はグリモワールに嫁いだときに大喜びだったと聞くわ。フェリックス王は?関係は悪かったの?」
アルフレードは無言で首を横に振った。
「俺にはわからないです。そのぐらい父と母の交流を見たことはありませんでした。祖父と関係が悪くて、小競り合いがあちこちで起きていましたから、そのために家にいないのだと思っていました。
でも今から考えたら変ですよね。だってオリヴィアンにくる直前まで、俺は祖父から学びを受けていました。祖父は馬で行ける範囲で、普通に生活していたのですから。」
家に帰らない父。
それも母と違い、片目が見えていた時の記憶でも父の記憶はほぼない。
そして、俺の片目が見えなくなった際、母は相当責められたらしいが、その時父は母を守ったのか?一緒になって責めたのか?俺にはわからない。
内紛状態にあるエドガーが、息子に帝王学を教えていても何も言わなかった。
弟を俺より可愛がっていたと思うが、よく関わっていたという記憶は...ない。
なのに、オリヴィアンとの婚姻関係を結び、内婿にすることを決定したのも父だった。
だが、最後は見送りすらない寂しい関係だった。
父フェリックス王を俺は何も知らない。
俺が去ってから、父は母や弟と交流を温めたのだろうか?
これから、俺はどうしたらヴィオラやオリヴィアンのために動ける?
アルフレードはリリスが毒味したあとの残った紅茶を飲み干した。




