27 王位継承者ヴィオラと誓いの守護者
オリヴィアン国内に、ヴィオラが王位継承者として正式に公布された。
オリヴィアンは性別差別の激しい国ではなかったが、それでも国民の間にはささやきが絶えなかった。
「女性が王になって国を治められるのかねえ?」
「戦争になったら、あの子に何ができるんだ?」
「外交の場ではいいカモだろうな」
その声が耳に入るたび、ヴィオラは唇をかみしめ、背筋を伸ばし、涙をこらえていた。
まだ十六歳の少女に、国の未来を託すのは無理だと考える者も多かった。
「若すぎるよ。今、王に何かあったらあの子が判断するのか?」
「ヴァルトシュタインが近々攻めてくるらしい」
「経験もほとんどないだろう」
しかもこれらの声は、裏で自分たちの傀儡を立てようと画策する貴族たちによって、わざとヴィオラに聞かせていたものだった。
腹立たしい気持ちでいっぱいのアルフレードは、どこに行くにも必ずヴィオラに付き添った。
否定的な声が聞こえる場所では、彼女の努力と才能の噂を撒く。貴族の策略を牽制するのが最優先だ。
さらにセバスティアン王に頼み込み、ヴィオラと一緒に軍備会議に参加させてもらうことにした。
そのため、いつも事前に元軍師ゼノスから二人で軍事や外交の勉強を受けた。会議の人間にもヴィオラの聡明さを知ってもらう作戦だ。
だが、部屋に戻ればいつもヴィオラは泣いていた。
アルフレードができるのは、そっと抱きしめて、こう言うことだけだった。
「今日もよく頑張ったね」
忙しい日々の合間にも、少しだけ普通の女の子でいられる時間を作った。
美味しいおやつを食べたり、政治とは関係ない話をしたり。
「やっと冬牡蠣がでてくるな」
「アルフレードは相変わらず牡蠣が好きね」
「初めてもらった手紙で、牡蠣は食べたことなかったからすごく関心があって。一度食べると止まらなくなるよね」
そんな些細な会話。
そして優しくキスをして、自分がどれだけヴィオラを愛しているか囁く。
以前のように、毎日囁いても重いと言われなくなっていた。
それだけヴィオラが弱っている証拠だ。
必ず一日の終わりには、ヴィオラの笑顔が、こわばった作り笑顔から、本当の笑顔へと変わるように努めた。
その笑顔をみるだけでアルフレードは報われた気持ちになった。
だが、内婿という立場は、強引に振る舞うことを許してはくれない。
かつてヴィオラが自分を守ってくれたように、今度は自分が貴族に抗議したい――しかし、それもままならない。
「今は焦る時じゃない」
アルフレードはヴィオラにそう言いながらも、自分にもに言い聞かせていた。
武勲や派手な成果があればよかったが、今は小さな実績と経験を積むしかない。
アルフレードは再び眼帯をつけた。
幼い頃は醜い皮膚と目を隠すために着けていたものだが、今度はヴィオラのそばで少しでも強く、勇ましく見せるための道具にするためだ。
幼い頃の柔らかいベルベットから硬質な黒金属に変えた。
あえて少し皮膚の爛れた跡を見せることで、ヴィオラのそばで支える戦士としての強さを示した。
「ヴィオラは、必ず俺が守る――」
だが、そう固く決意した冬が近づくある日、ヴァルトシュタインは容赦なく戦を仕掛けてきた。
――まさかの、グリモワールに。
アルフレードの祖国、父が王として治め、母がヴァルトシュタインの第一姫で関係は良好なはずの国。
絶対安全と思われていた国が戦火に巻き込まれた。
誰もが予想しなかった展開だった。




