25 次期王の決定
オリヴィアンの王宮に緊張が走った。
「ヴァルトシュタインは、必ず攻めてくる」
騎士団長シリルが断言する。
元々、ヴァルトシュタインの内紛は
「領土拡大派か、穏健派か」
で始まったものだ。
しかし、穏健派の王が亡くなった今、止める理由はない。
「だが……海路でヴァレンティアを経由してくるのか、それとも陸路で直接オリヴィアンを狙うのか」
海軍提督ヘルマンは唸った。
北部はヴァルトシュタインと接している。
直接攻めてくるのか、それとも海軍を使うのか、まったく読めない。
しかも、ヴァルトシュタインも海軍を持っている。オリヴィアンほどではないが、侮れない。
「ひとつだけ確かなことがある」
宰相兼参謀のマクシミリアンが、皮肉混じりに笑った。
「グリモワールは安泰だ。次期ジュリアン王と王妃アンジェリカの関係は良好だからな」
彼らとリリスの関係は悪く、娘婿のアルフレードは、実の息子でありながらアンジェリカに見放されたような扱いだ。
「そんな言い方をするな! あいつらが何か悪いことをしたわけじゃない!」
シリルは眉をひそめた。
「いずれにせよ、グリモワールの力を削ごうとするなら、ヴァルトシュタインも無傷では済まない。普通に考えれば、北を狙うだろう」
シリルは小さい頃から、アルフレードとヴィオラの努力を見てきた。
王族でありながら、誰よりも訓練に打ち込み、切磋琢磨する二人の姿。
その努力を蔑ろにされるようで、胸の奥が熱くなる。
「次の王を決めよう」
セバスティアン王は静かに告げた。
「次の王はアルフレードですか?それともヴィオラ姫ですか?」
マクシミリアンは、うわずった声で尋ねる。
王は目を閉じ、決意を込めて答えた。
「次はヴィオラだ。アルフレードは王配とする」
王宮に静寂が広がった。
アルフレードではなく、正統な血筋を引く姫が国を背負う。
士気は上がるが、不安も残る。
アルフレードなら誰もが信頼できる動きをする。命を預けられる。
だが……シリルは小さくため息をついた。
(グリモワールとの争いになったら、アルフレードの立場次第で意見が割れるだろう)
セバスティアンも、王として決定を下したが、幼い頃から愛情を注いだ姫の行く末を思うと、胸が締めつけられる。
(まだ、16歳の女の子だ……)
ドレスを着て、社交界デビューして、戦争とは無関係に幸せを夢見ていい年頃だ。
だが、もし自分に何かあったら――国を任せねばならない。
そのとき、ヴァルトシュタインの軍勢に抗えるのか。逃げることは許されない。王家に課せられた宿命だ。
では、アルフレードは――?
思った以上に優秀な青年で、すでに家族のように感じている。
役に立たない人質だと思っていたが、とんでもない。
常にヴィオラのことを考え、王家を立て、臣下との関係も壊さぬよう努力している。
だが、戦火が飛んできた時、アルフレードはどちらに立つのか――?
姫を守ってくれるのか、それとも裏切るのか……。
結婚の話も考えねばならない。
今、アルフレードは18歳、ヴィオラは16歳。婚姻としては適齢期だが、戦争を防ぐために先に結婚させるべきか。
逆に、グリモワールから疎まれているアルフレードを囲うことで戦火が加速するかもしれない。
ため息をつき、セバスティアンは考え込む。




