24 王子の呪われた帝王学
グリモワールの王、フェリックスは――物心ついた時から、満足を知らなかった。
それは父エドガーゆずりなのかもしれない。
「父上は俺を認めようとしない」
「嫁は勝手に決められるし、よりにもよってヴァルトシュタインの気位の高い姫だ」
「息子は流行病で片目を潰した醜い顔だ。しかも、父上はその息子に帝王学を与えている」
――どれもこれも、気に食わない。
だが、アルフレードのことだけは……ちょっと笑える話になった。
フェリックスは口元を歪める。
(あれは俺の仕込みだったんだよな)
エドガーのもとへ帝王学を学びに行くアルフレードのペン。
そこに「城下で死んだ病人の体液」を染み込ませておいた。
もちろん、その後は証拠隠滅。命じた家臣は別の家臣に処分させておいた。
本当は、エドガーでもアルフレードでも、どっちが死んでも構わなかった。
たまたま感染したのはアルフレードで、しかも死ななかっただけのこと。
(でもまあ……ざまあみろだ)
父が将来を託した人間が、結局は「片目の欠陥品」になった。
その事実だけで、胸のつかえが少し下りた気がした。
アンジェリカも、すぐに息子を見限った。
次男のヴァルターばかり可愛がっている。
(親の愛なんてそんなもんだろ。俺だってそうだったしな)
フェリックスは心の中で嗤った。
――結局、王家なんて駒をどう使うかだけの話だ。
だが、皮肉にも父エドガーはアルフレードの帝王学をやめなかった。
両親である俺たちが、次の代はアルフレードではなくヴァルターだと言っているのに、最初からエドガーは自分たちの意見など聞く気もない。
しかも、アンジェリカの教育が悪いせいで、アルフレードに比べてヴァルターはパッとしない。
もう10歳になるのに、アルフレードの時のように周りが褒めそやしてこない。
「くそっ!思うように行かない」
どんどん、エドガーとの関係は悪化していた。
(そうだ……娘しかいない国があるじゃないか!)
思いついた瞬間、俺はにやりと笑った。
オリヴィアン――小国ゆえに三方から攻められる危険を抱え、グリモワールと同盟を望んでいる国だ。
「あそこにアルフレードをやればいい」
アルフレードの片目が見えないことは隠せばいい。
とはいえ、いずれバレる。
もしそれを理由に断られたら? ――むしろ好都合だ。
“ならば内婿にしてやろう。腐っても第一王子だぞ”と持ちかければ、奴らは飛びつくに決まっている。
アルフレードがこの国にいる限り、俺の治世にとって邪魔な存在になる。それなら出してしまえ。
結果。
……まさかアルフレードが、勝手に手紙で『片目は見えません』と告げるとは思わなかったが。
だが話は意外にも順調に進んだ。
エドガーも、そんな話はきいていないと激怒した。
だが、あきらめたのだろう。
やがて「北が安定するなら悪くない」と態度を変えた。
アンジェリカも、自分と関係のよくない妹が嫁いだ小さな国に見限った息子が嫁ぐことに異議はないようだった。
(ほら見ろ。俺の考えを最初から認めていれば、全部うまくいったんだ)
だが――それで父との確執が消えることはなかった。
むしろ溝は深まり、ついにグリモワールは南北に分かれるほどの内紛へと転がり落ちていくのである。




