20 支え合う約束と、運命を揺るがす訃報
海から戻ったヴィオラは、ひどく落ち込んでいた。
しかも追い打ちをかけるように雨に打たれ、寒さで風邪までひいてしまったのだ。
当然、セバスティアン王は激怒。
「もう海の訓練は禁止だ」
そのひと言で、ヴィオラはさらに塞ぎ込んでしまった。
――けれど、俺は知っている。
彼女の努力が足りなかったわけじゃない。
無謀に突っ込んだわけでもない。
急な天気の変化は海ならよくあることなのだ。
ただ、この秋の北風は骨まで冷やす。
風邪を引いてしまったのは不運としかいえない。
そして唯一の子である姫だ。
セバスティアン王が心配するのも、よくわかっていた。
「ヴィオラ、本当に必要なのは……実地の訓練なのか?」
そう問いかけると、彼女は膝に顔を埋めて小さく肩を揺らした。
「じゃあ……私が女王になったら、私は何ができるの……?自分ができもしないことを人に命令するなんて」
その声は、あまりにもしおらしくて胸が痛む。
アルフレードはヴィオラの横に座りぎゅっと抱きしめる。
「そのために俺がいるんじゃないか?君ができないことは俺がやる。俺ができないことは君がやってくれるんだろう」
未来に向けて何も約束できないのに、俺はそう言うしかない。
俺はもうすぐ十九歳になる。
この国を背負う王として立つのか。
それともヴィオラを支える王配として生きるのか。
――だが、答えを出す前に、まもなく運命は勝手に動き出した。
突然の訃報が舞い込んだのだ。
ヴァルトシュタイン王国の王、グスタフ死去。
それは、実母アンジェリカと王妃リリスの父でもあった。
そして俺にとっては母方の祖父にあたる人物が亡くなったのだ。
ヴァルトシュタインは、この大陸でグリモワールに並ぶ強国だった。
東には山脈を隔てて俺の母国グリモワール。
西は海に面する。
北の端ではオリヴィアンと一部国境を接している。
オリヴィアンは、王妃リリスと王セバスティアンの婚姻同盟で争いが起きない。
グリモワールは、母アンジェリカと父フェリックスの婚姻同盟で争いが起きなかった、
だが、本当の火種は別にある。
ヴァルトシュタインのさらに北、オリヴィアンの西にある小国ヴァレンティア。
オリヴィアンとヴァルトシュタインの間に挟まれて、常にどちらにつくかで揺れている国だ。
この国の動き一つで、情勢は一気に傾く。
さらに厄介なのは、グスタフ王の死後に残された家族の確執だ。
リリスはグスタフ王と良好な関係を築いていた。
しかし、前王妃の子であるアンジェリカや息子ジュリアンとは不仲だった。
ジュリアンとグスタフ王は家督をめぐり内戦同然の対立にあったのだ。
そして――今、王がジュリアンになったことで、オリヴィアンは安全とは言えなくなった。
ジュリアン王が、北のヴァレンティアと手を組むか侵略したら、その隣のオリヴィアンは間違いなく餌食になる。
その時、グリモワールが守るかどうか?
グリモワールとオリヴィアンの繋がりは俺だ。
だが、その俺に……本当に価値はあるのか?
そして、ヴィオラときちんと結婚させてもらえるのか?
何もわからないのに、政局だけが動き始めていた。




