186 終戦の白、始まりの闇
急転直下とはこのことである。
「だいぶ雪が積もってきたよね。これで雪のバリケードを築けたら、ヴィオラとアルフレードは一度国に戻りなよ。子供達も心配だよ」
ヴァルターは声をかけた。
「あなたを一人にはできないわ」
ヴィオラは、とんでもないと首を振る。
「母親は一人しかいないよ。二人ともここにいたら、寂しがってるよ。俺は、父も母も、事実上いないような期間が長かったから、二人の子には幸せに過ごしてほしいと思っているんだ。それに、俺にはセレンがいてくれるしね」
ヴァルターが微笑む目の先には、今日も動き回ってるセレンがいる。
「女性で、お義父さんが騎士団長だから、人より動かないと認めてもらえないと思ってるんだよ。でも、彼女はこの国の王妃になる人だからね。少し動きを抑えて、俺のそばにいてもらおうと思う」
ヴァルターはセレンが動きすぎて、軽んじられることを心配していた。自分の手元にいてもらう時間を要求することで、休養を与えてあげたいと思っていた。
「じゃあ、雪のバリケードができたら...」
そうヴィオラが言いかけた時、大声が上がった。
「白旗をもった使者が来ております!!」
ヴィオラ、アルフレード、ヴァルターの三人は、顔を見合わせる。
ジュリアンは絶対そんな簡単に降伏するようなやつじゃない。それならなぜ??罠か?
「は、話をきく...」
返答したヴァルターの声が上ずる。
レオポルト王は、海軍の状況把握のために、ヴァレンティアに戻っていた。
早駆けで、連絡を入れてもらうように頼む。
「とりあえず、俺たち三人で聞くしかないよな」
アルフレードの言葉に、残りの二人は頷く。
ヴァルトシュタイン側は騎士団長と宰相、それから護衛兵3人の五名だった。
「私たちは、降伏を宣言するために参りました」
二人の鎧はまだ汚れひとつない綺麗なままだ。
南部にいたのだろうか?
少なくとも戦場で指揮をとっていた二人ではない。
警戒感を強め、三人と使者の間に距離を置き、その中間に三国の騎士団長たちが、何かあっても良いように待機する。
「...ジュリアン王は?降伏についてどのように言ってる?」
ヴァルターは、降伏を要求しても形だけのものだと思っていた。
「王は...要求通り服毒なさいました。これ以上戦を続けてはならないという判断です」
オリヴィアンの毒入りワインは、最初からオリヴィアン産は飲まないことを知っていたから、嫌がらせのようにそれに入れて贈っただけだ。
せめて、オリヴィアンの王や王妃、彼らの無念を、同じ立場になっている今、思い知れと思っただけだ。
ヴァルターは衝撃を受ける。
「まさか...」
「遺体の検分もしていただくことは可能です」
ジュリアンの顔を知っているのは、ヴァルターだけだ。
「検分しよう...」
彼らは、ジュリアンの遺体付きで白旗を持ってきたのだった。
ーーー
「間違いない。ジュリアンだ、血を流すのはこれで終わりだ。私は、王妹アンジェリカの息子のヴァルターだ。これから、この国を統治する。まずは、国民に伝えよ。戦いは終わり、武器を捨てよと。無抵抗な国民を攻撃する意思はないと。」
ヴァルターは、ふと気づく。
間違いなく目の前に死んでいるのはジュリアン。
服の端にワインの染みがついている。
だが、目の前の宰相と騎士団長に悲しみが見られない。
リチャードの時のような憎悪もない。
「二人に聞きたい。ジュリアン王は、どんな王だった?」
アルフレードとヴィオラは顔を見合わせる。
そしてヴァルターの疑問を感じ取ったようだった。
戦っていない綺麗な鎧、悲しみのない臣下、まるで準備されたかのようなジュリアンの遺体...
ジュリアンは本当に降伏を受け入れていたのか?
自らの希望で亡くなったのか?
そんな疑念が渦を巻いていた
そして、ヴァルトシュタインの宰相と騎士団長は、初めてそこで苦しそうな顔つきになった。
二人は顔を見合わせて、語り始めたのだった




