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【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


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183 俺を二度と作り出さないために

すでに北は積もらないまでも、木枯らしが吹き、ときおり雪がぱらついていた。


オリヴィアンとヴァレンティアは出陣と同時に、城門を閉めて、念のためにヴァルトシュタインの襲撃がきた時に備える。


ヴァルターは精神的な回復を考慮して、ヴァレンティア騎士団でそのまま訓練を継続した。

セレンと、セレンの父のカインが、ヴァルターの精神的な回復のサポートに回った。


アルフレードにもヴィオラにもそして、これから海軍で別行動になるヘルマンにも言わなかったが、ヴァルターは、強く見せていただけで、夜はうなされることが続いていた。

矢の音で嘔吐することもあった。

もちろんびくつくことも多かった。


だから、オリヴィアンに守ってもらうのは無理だったし、名誉回復がされつつあるグリモワールの騎士団にその姿をみせて、彼らがまたオリヴィアン騎士団を憎悪するのも避けたかった。


「旗頭は無理では無いか?」

レオポルト王は心配するが、ヴァルターは微笑んでいた。

「表面を取り繕うことは、得意ですから。」

そういって、ヴァルターは、兵を率いていよいよ旅立つ日までに、何事も無く平気そうな顔を演じられるようになっていた。


但し部屋に戻ると、セレンには不安を吐露する。

「実際の戦場で、落ち着いて演じ切れたらいいんだけどね」


セレンはその姿を見て心が痛かった。


「僕には愛する妻ができたんだから、少しでもかっこいい夫の姿を見せたいだろ。吐くから、やりたく無いとはいえないよ。」


そういいながら、セレンの少し伸びてきた髪に口付けした。 

「そんなの...ヴァルターらしくないわ。もう!」


すぐ文句言って、弱くてびびりなヴァルターは、結婚してもその性格はかわらないのに、セレンの前ではなんとかそうでは無い姿を見せようとするので、苦しくなる。


「そんなに無理しなくったって、わたしは少しビビリで弱くて、文句ばっかりのあなたが好きなんだもの。妻でい続けるし、味方なんだから。わたしの前でだけは、いつもなヴァルターでいてちょうだい。あなたが思う以上に、あなたが愛しいの」


ぎゅっと抱きしめると、ヴァルターはほっとした顔をする。


「うん。なんか、貶されてる気しかしないけど、俺も勇ましくて強いくせに、かわいいセレンが好き。でも、俺は君に支えられてる実感がすごくあって感謝も加わってるから、君が思う以上に、俺の方が君を愛してるんだ」


交際0日婚なのに、どちらがどのくらい愛しているかを競い合いながら、ヴァルターはセレンに甘えることが出来るようになってきていた。


そんなセレンと義父のカイン、レオポルト王と共にヴァレンティアから出陣する。ヴァレンティアがヴァルターを中心に守り、前方山側をグリモワールのアルフレードが、同じく海側をオリヴィアンのヴィオラが進軍する。

 

三国の王が直々に出てきて、騎士団を引っ張る。

それは、同盟の強固さが一目で見て取れるものだった。


同時刻に、ヴァレンティアとオリヴィアンの海軍が、ヴァルトシュタインの海軍を攻める予定になっている。


「お互い、生きて帰ろう」

そう声をかけるとヴァルターはヘルマンと握手した。

「ああ、ジュリアンのところに行くまでは死ねないからな」


ヘルマンの腕には相変わらずアンジェリカのハンカチが巻かれている。

ヴァルターは目を細める。


もし、ヘルマンが父で俺とアルフレードが息子だったら、母もあんな風にならなかったのかもな。


愛していたと書かれた手紙をもらったアルフレード、好きになるほど良い思い出を持っているヘルマン。

俺には、最後までアルフレードと比べられ、結果的に俺のせいで死んだ母の記憶しかない。

強い憎悪はないが、二人ほどの愛情も母には持てない。

少し二人が羨ましいと思った。


スッとヴァルターが手を挙げる。

角笛が三度、響くと同時に「前進せよ」声が響く。


歩兵が進みはじめ、瞬く間にみんなに開戦が伝わる。

馬の足音、剣、槍の音が少し響くが、国境を超えあっけないほどスムーズに進軍して行く。


それもそのはずだった。

「なんだこれは...」


戦の空気を読み取り、多くの亡命希望をしてきたものたちが捕らえられている。それだけではない。

おそらく、北部の罪のない一般市民も含まれているのだろう。


彼らによってつくられた人命の盾が出来ている。ヴァルトシュタインの防衛線は、震える女性、泣き叫ぶ子供、震える手で武器を持たされる民衆だった。


「ほら進め!」


その声がアルフレードの耳に入る。


「なんてやつだ。国民を盾にするかよ!」


アルフレードが呟く。


「武器を手放した奴は手を出すな。」


レオポルト王が叫ぶ。


「待って!一度とまりましょう」


ヴィオラが迷う。


だが、武器を手放せば攻撃しないと叫んだ声を聞き手放した民衆を、ヴァルトシュタインの兵が矢で撃ち殺す。

叫び声が聞こえる。


そして、進軍が止まりつつある自分たちに兵が迫ってくる。


こちらが、あっけない進軍ができたのは兵がおらず、罪なき人々による盾をつくるためだったのだ。


進軍ペースが落ちれば、山側から弓が狙う。


ヴァルターは、ふうっと肩で息をして、一瞬目を閉じて過去を思い出す。


強い力に逆らえなかった自分。

逃げられないのに悪の象徴になっていく自分。

今度はその強い力側にいる。


父フェリックスと叔父のジュリアン王の狂気を思い出す。


「……誰かが、罪を引き受けなければならない」


ヴァルターは静かに言い、吐きそうになる気持ちをこらえる。


「誰かが、終わらせなければいけない。俺を二度と作り出さないために。ーーーー前進だ!!」


その声に、兵たちは一瞬だけ迷い、そして動き出す。

雪が、流れた血の上に舞い落ちていた。




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