182 報復の終焉
「えーーっ!なんでそんなことに!」
レオポルト王に、経過を説明して、エドガーと同伴であれば、俺ーーアルフレードはヴァルターと面会が可能になった。
「なんでって、お前にしたことはそれだけの罪だから」
「そんなことしたら、騎士団員に逆恨みされちゃうじゃないか。要らないよそんなの」
ヴァルターは真っ青な顔してブンブン首を振った、
良くも悪くも通常運転だ。
「立場的にそういうもんじゃないのよ。」
セレンが渋い顔をして、ヴァルターに話す。
「俺がこれだけ要らないっていってるんだから、そんな生首いらないよ。みんな、結局俺の言葉なんて聞いてくれないんだから。とにかく、恨みは次の恨みにしかならないんだから。別にリチャードに理解されたいとも思わないしね」
「いや、お前は悪くない。それをきちんと説明できなかったのは俺や祖父上だ」
「すまん、ヴァルター」
アルフレードとエドガーは二人で頭を下げる。
「もう、やめてくれよ。そんなことされたら、今度は矢じゃなくて槍が飛んできそうだよ。祖父上も、アルフレードが頑張って国を治めているのに口出しすぎだよ。アルフレードが困った時に相談にのってやるぐらいにしないと、また父上の時の再来になるぞ」
「いや、わしはお前が幼い頃そんなひどい目に遭っていたことを知らないままお前を批判していた。」
エドガーは、本当にショックだったらしい。
「父上が俺にしたことを怒ってくれたって...どうしてだよ。なんでそんなことしたんだ。そんなに俺たちの関係、子供の頃、良くなかっただろ。俺はお前を庇うことすら出来なかったのに...」
俺は苦しそうにヴァルターを見た。
正直、どうして庇ってくれたのかーーしかも何度も通ってまで怒りを持ったのか、考えてもわからなかった。
ヴァルターは困ったように笑う。
「アルフレードには申し訳ないけど、母上の意に沿わないことは当時できなかったんだ。それに怒ったのは最初だけだ。結局、以後、父上と会う勇気もない。
邸宅行って、玄関開けてもらっても、父上のいる部屋に震えちゃって入れないんだ。
父上だって俺が来ていることを知っても顔も出さない。俺は、首絞められたぐらいでビビっちゃってさ。それなら俺も怒らなきゃいいのにな。」
「.......首絞められたぐらいって.....求めて会いに行った父に、兄と祖父の殺人計画や、実際に家臣に手を下したことを告げられて、脅されて、首を絞められたのだぞ。恐怖を感じるのは当たり前だ。」
エドガーは狼狽している。
息子フェリックスの罪は自分にあると思っているのだ。
俺は、穏やかなヴァルターの顔を見て、逆にその傷の深さを感じる。
セレンも、ヘルマンも俺から事前に話を伝えたが、ショックを隠さなかった。
でも、苦しみを共有できても、もう戻れない。
ヴァルターには決して癒えることの無い遠い過去なのだ。
「幸せだった記憶があるんだよ。まだ小さい時の記憶だけどな」
「え?」
「アルフレードがまだ目をやるちょっと前かな?アルフレードは勉強して、俺はその横で勉強している気になって落書きしてて、それを母上が優しく見て笑ってるんだ。」
俺は、病にかかる前の記憶が正直ぼんやりしている。
母が背中をさすってくれたり、優しかった記憶はある。
ヴァルターは...うっすら思い出が蘇ってくる。
あまりに、病にかかった後の強い記憶が残りすぎて、過去がはっきりとしなかった。
「俺は、いつもアルフレードの後ろをついてまわってたんだよ。アルフレードは優しくて、手をつないで引っ張ってくれた。でも、祖父上のところは、小さすぎて俺はまだ一緒に行けないんだ。いつも、馬車に乗るのを羨ましそうにみてた。アルフレードは、大きくなったら一緒に行って学ぼうって言ってくれた。それが、俺の家族の唯一の楽しかった時の記憶。それを全部父上が壊したんだ。アルフレードのためじゃない。俺が、父上を勝手に許せなかっただけだ」
ヴァルターは遠い目をした。
「あの時の父、フェリックスの狂気に満ちた顔は今も忘れない。ジュリアン王の狂気とも似ている。あの二人は人としての何かがもう壊れてしまっていて、彼らの恐ろしさを思えば、リチャードは個人としては小物だよ。
流石に連日の矢は恐怖だったけど、お義父さんが少しづつ克服する練習もしてくれているし、本当に気にしなくていいんだ」
「いや、リチャードのことは、もう決めたことだ」
俺はキッパリと伝える。
セレンが、それなら...と、こそっとヴァルターの耳元で囁く。
「えーっ!俺そんな自信ないよ!」
「いいじゃないの。あなたの腕前を見せる時よ」
セレンがにっこり笑う。
「その処刑、ヴァルターにさせたらいいわ。目には目を、矢には矢を!よ」
「外したらどうするんだよ」
「何度でもうてばいいわ。だって処刑ですもの。散々恐怖を感じながら終わってもらいましょう」
セレンはキッパリと話す。
俺とエドガーは何のことだかわからない。
ーーー
後日、リチャードに暴行を与えた罪で、ヘルマンは減給と謹慎処分が言い渡される。
「わかりました」
散々ヴァルターから叱られたヘルマンは納得してその罪を受け入れる。
リチャードは、名誉剥奪で騎士団にいられなくなることにショックを受けて暴れた。
「なんでだ!セバスティアン王の仇を討たせてくれ。頼む」
自分が騎士団にいられなくなるなんて思ってもない。
「だまれ!それだけではない。更に他国の王族を暴行した罪は重い。矢打ちの処刑だ」
マクシミリアンの声に、みんなの中にどよめきが走る。
ヴァルターはグリモワールの第二王子。
普通に海軍にいるから自覚していないものが多かったが、その罪は普通に死刑だ。
俺たち何をしていたんだーーー
騎士団員は真っ青になる。
更には妻はヴァレンティアの王族の血族だった。
二国を敵に回したようなものだ。
だが、リチャードはそのことよりも、ジュリアン王の仇をもう討てないことに衝撃を受けていた。
「頼む。死刑でいい。仇をとったら死刑でいいんだ。ヴァルター王子に詫びる。後で刑も受ける。頼む」
「そんな理屈があるか。わたしは何度もお前に言ったはずだ。お前の行為は職権濫用だ。その立場を使った他国の王族の暴行だ。」
マクシミリアンは断罪して、処刑台に連れて行くように命じる。
ヴィオラは、その視線を決して崩さなかった。
じっと、ただリチャードが慌てて懇願する様子を見つめるのみだった。
ーーー
縛られて、大の字に固定されたリチャードから50メートル離れた位置にヴァルターが処刑人として立つ。
「これを全部打ち込めばいいんだね。」
矢の入った筒を見る。
ヴァルターは、静かに弓を引く。
ヴァルターの目には、瞬間見えない憎悪が光る。
バシュッーー弓から大きく放たれた音がして、矢尻がキラッと光る
リチャードの頭の上ちょうど刺さり、髪が少しパラっと落ちる。
「少し逸れたか」
ヴァルターはつぶやいて、次の矢を引く。
再びキラリと光る矢尻に、目を背けるものもいる。
ヴィオラは背けず、まっすぐ見届ける。
バシュッーー右脇
バシュッーー左脇
バシュッーー股下
バシュッーー右足下
バシュッーー左足下
全てが、1センチ横に刺さる。
バシュッーー指先、5ミリ横
「じゃあいくね」
最後の矢を引く
みんながその矢を見て驚く
バシュッーーーーその矢は迷うことなくまっすぐ腹に。
「うっーー!!」
突き刺さることはないが激しいダメージがある。
その矢の先には安全に何十にも巻かれたクッションがあった。
「ヴィオラ女王、これでわたしの気は晴れました。これで処刑は終了です。ただし、彼が私にした行為を思えば、わたしの背中を任せることはできません。
彼には私の前で私の矢を防ぐ役目をしていただけたらと思います」
ヴァルターはそう声をあげた。
何も聞かされず、リチャードの死を見届ける覚悟を決めていたヴィオラは、驚き震える。
そして、ごくっと息を飲み告げた。
「ヴァルター、本当に私の家臣が申し訳ないことをしました。リチャードだけではありません。彼を見張り責任をもってあなたを守るために、私も出陣します。」
ヴィオラの声は震えていた。しかし、その声に含む王としての覚悟に、みんなの気持ちが一つとなっていった




